掲載・更新日:2023.03.10

長期化・深刻化する人手不足、BtoC物流需要の拡大、国際物流の不安定化などの環境変化を背景に、IT・ロボティクスを活用した物流DXが加速しています。社会が物流に求める役割が変容し、物流企業も変化を求められています。さまざまな選択肢を前に、物流会社は今後の舵取りの判断を迫られているのではないでしょうか。
今回、LOGISTICS TODAY様の企画により、WMS(倉庫管理システム)の側面から日本の流通、物流を支えてきたシーネット様とロジザードのトップ対談が実現しました。WMSのこれまでの歩みから今後の展望まで、弊社代表金澤が小野崎社長と語り合いました。オンラインセミナーの形式で配信された対談の様子を、StockTalkでもお届けします。

シーネットとロジザード、これまでの歩み

赤澤氏: WMSは「物流DX」全盛の時代にどこへ向かうのか、ユーザーは倉庫管理システムとどう向き合っていけばいいのか? LOGISTICS TODAYは、デジタル化の中心で常にユーザーニーズを反映する形で開発、発展してきたWMSのトップ企業2社の代表に、この際直接伺ってみようと対談を提案しました。長らく日本のWMS業界をけん引してきた株式会社シーネットとロジザード株式会社、両社の経営トップによる初の対談を通じて、物流倉庫管理システムの現在地と未来を描いてみたいと思います。初対談とのことですが、これまでお互いの存在をどのように意識してこられたのでしょうか?

小野崎氏: WMSを手がけて35年以上になります。ロジザードの存在は、怖いと思ったこともありますが、シーネットとは違うところでやっているなと思っていました。暗黙のうちに、お互いの領域を侵犯しないようにやってきたような気がします。

金澤: 小野崎CEOは、ロジザード創業の10年以上も前からWMSを手がけられている、大変尊敬申し上げる大先輩です。我々はスタートアップ企業として、いろいろな面でご教示いただきました。インターネットの普及という背景の下、ほぼ同じ時期から切磋琢磨しあってきた間柄だと僭越ながら思っています。

当時のWMSは、大手企業が5,000万から1億円のコストで1~2年がかりで導入するシステムといわれていました。中小企業にはとうてい無理な投資です。ロジザードは2001年創業ですが、1997年に楽天が創業し、2000年にはNTTがADSLを提供、まさにインターネットが普及し始めるタイミングでした。そこには、ITを民主化するというイデオロギー的な背景があり、中小企業が使えるWMSを提供するんだ、という強い思いがありました。しかし、クラウド型は合理的かつ価格的な優位性はあったものの、実績がない点で大変苦労しました。他に売るものはない、これを売るしかないわけで、創業時から背水の陣を敷いていたようなものです。


それぞれに特徴的なターゲティングと戦略で成長

赤澤氏:シーネットはオンプレに見切りをつけてクラウドへ、ロジザードはスタートアップでインターネットの成長に命運をかけて、ほぼ同時期に船出したのですね。当時としては前例がないサービスですから、よりどころとして不安を持つ社員もいたのではないかと察します。その中で経営者の理念、進む方向を指し示すトップの発信は重要だったのではないでしょうか?

小野崎氏: シーネットは、7人でスタートしました。少数精鋭といえば聞こえはいいですが、できることは限られます。7人でできることは何か、7人でやっていくには何を切り捨てるか、を明確にしました。例えば、「大手コンピュータメーカーとは戦わない」、「マテハン系が出てきたら譲れ、その道には行くな」と。不毛な戦いは極力避けて、インターネットの道で歯を食いしばりました。やがてネットやITが進化して世間的に理解が進み、今は大手企業相手にも逃げずに戦えるところまで成長しました。

金澤: 中小企業の仕事をもっと楽にしたい、在庫情報を理解できる経営者になってほしい、今にして思えば崇高な理念ですが(笑)。それまで手が届かなかったWMSを、中小企業に使ってもらうことが目的ですから、利用コストを下げるにはどれだけ多くの会社に使ってもらうかがカギです。100社より200社に使ってもらった方が、1社あたりのコストが下がります。たくさんの方にアプリを使ってもらうには、クラウドが合理的でした。

赤澤氏: 導入コストが低いのはとても大きな利点です。一方で、アプリ化が進むと誰もが気軽に参入しやすくなり、マーケット内で製品が玉石混交となりがちです。両社ともに優れているのは、コストは下げても品質を落とさなかった。だからこそ、信頼を得て今があるのではないかと思うのですが、どのような努力をされたのでしょうか?

金澤:機能品質を高めたのはもちろんですが、物流はサービスであるという概念を持っていましたので、製品をサービスに仕立て上げ、磨きをかけました。WMSを導入したら現場が使い倒せるよう、運用サポートを徹底的に手厚くしたのです。それがロジザードのやり方でした。

小野崎氏: シーネットは、基本的にカスタマイズして納品します。非効率的ですが、やはりお客様それぞれに固有のニーズがあり、そこに応えていく姿勢は創業時から一貫して変わりません。カスタマイズを容易にするため、ユーザー側が使う部分とデーターベースの部分は切り分けています。


物流業界の発展を支えたWMS、そのマーケットの現在地は?

赤澤氏: 両社の歩みは、クラウドと向き合ってきた20年だと理解できました。インターネットの普及、成長にあわせて発展してきた経緯を見ると、共通点が多いと感じます。では、違いはどうでしょうか? WMSマーケットの今の状況も含めて考察していきたいと思います。

赤澤氏: 会社が発表している資料から、ターゲットとしているマーケットについてみていきましょう。シーネットは、システム稼働センター数を指標にされています。2022年にはセンター数が1,037と、非常に多い拠点数ですね。一方ロジザードは、アカウント数が指標で、2022年には1,575アカウントと、こちらも非常に多い稼働数です。実は、LOGISTICS TODAYがこの時点で調査した限り、拠点数、稼働数で4桁を超えているのは2社だけでした。

シーネットの顧客情報を分野別比率で見ると、飲食チェーンやコンビニ、食品卸、ECなどのサービス業が最も多く44.5%を占め、運輸・倉庫業はその次で約30%となっています。特に食品業界での普及率が大変高いという特徴があります。「食品に強い」シーネットといわれるゆえんですね。企業規模で見ると、大手企業が49.4%ほぼ5割を占めていて、中小企業は25.7%です。

小野崎氏: 得意とする部分をコツコツとやってきた結果が、今のこの数字に表れています。もともと賞味期限に関わることを長くやっていますから、そこがスーパーなど食品チェーンや卸に評価されているのでしょう。食品業界は非常に利幅の少ない業界で、物流コストをかけられません。いかに安くできるか、という検討の中で当社のWMSがマッチしたのだと思います。また、ある時期から、卸向けに専任部署を立ち上げました。その成果もあって卸を含むサービス業のボリュームが大きくなっています。

赤澤氏: 2020年の調査のデータになりますが、こんな風に比較できます。

ロジザードは運輸・倉庫が圧倒的で8割近くを占めています。企業規模も、売上10億円以下のいわば中小企業がメインユーザーです。マーケットが明確に分かれていて、それぞれで圧倒的な強さを誇っています。私は先程から両社を「ツートップ」と表現していますが、この2社に序列はつけられません。

金澤: シーネットさんは卸、ロジザードはECと、マーケットはまったく異なります。シーネットさんの強みは、なんといってもカスタマイズの対応力です。私たちはいつも驚かされっぱなしでした。当社はそこまでのカスタマイズには対応できません。オプションで対応する、お客様側に合わせてもらって業界そのものを標準化していく、という方針なので、ニーズの点からもお客様が被らないのです。

物流業界とWMS市場の未来

赤澤氏: 物流業界は2024年問題も控え、DX変革期にあります。今後物流業界とWMSはどのように展開していくと思われますか? WMSは、倉庫・物流センターの業務効率化を目指すツールであるというポジショニングは変わらないと思いますが、協調領域、競争領域についても両社の考えを聞かせください。

小野崎氏: システム連携は、今後の大きな課題としてとらえています。顧客メリットを最大化するために避けて通れません。そのためにはWMSをオープンにする必要がある、そのためにWES*を作りました。これは完全にオープン化されたシステムで、初めからマテハンやロボットと連携できます。展開の一つとして、強化していこうと考えています。

金澤: かつてはそれぞれの企業が個別最適を目指してビジネスを展開していましたが、これからの時代は変わってくると思います。データ連携やシステム連携は、お客様が強く望んでいるところです。これはWMS単体の努力でできるものではありません。配送など前後の業務も含めた最適化を目指していかなければなりません。物流メッシュの中で自社のポジションを確認しつつ、業界全体としてデータシェアの重要性に向き合って考えていくことが重要です。

赤澤氏: つなげていくという発想は、両社とも共通した考えですね。シーネットはWESで一元的にコントロールしていく方向を模索し、ロジザードは周辺業務システムをシームレスにつなげていく方向で模索している、ここにも両社のスタンスが表れています。

金澤: 消費者の部分に至るまでのデータを、ハンドリングすることが必要だと考えています。ロジザードは、それに寄与する適切な在庫情報を提供していきます。


質疑応答

赤澤氏: ここで、視聴者から寄せられた質問に、回答いただきましょう。

Q1: WESの今後について

WESの性能向上がDXには重要課題。どのように、どのような機能に発展していくか、ご意見を教えてください。

小野崎氏: WMSにすべての機能は載せられません。ロボットもどんどん多機能化し、種類が増えています。マテハンもデバイスも同様ですし、今後はAI分野も活用することになるでしょう。これらすべてに応じられる機能をWMSに載せるのは非効率ですから、その部分はWESに任せるべきです。TMS(輸配送管理システム)など、さまざまなシステム間連携も進むでしょう、その意味でも今後WESの重要性は、ますます高まると思います。

Q2: API関連の今後について

API等による倉庫内で運営される他のシステムとの連携の現状と戦略を教えてください。

金澤: お客様からの要望が高いのは、上位システム、つまりERPなどの基幹システムとの連携です。ERPで在庫データを見たい、在庫情報を上位システムにスムーズに返したいというニーズです。システムも複雑化しているので、API連携の重要度も増していくと考えています。


キーワードは「つながる」。業界を超えた枠組みを考えていきたい

赤澤氏: あっという間に時間となりました。それぞれ今日のご感想をお願いします。

小野崎氏: おもしろかった!とても楽しい対談でした。このような機会を作っていただきとてもうれしいです。

金澤: 大先輩の胸をお借りして、いろいろなお話ができました。WMSの協調もですが、前後業務、特に配送系システムとのつながりは急務で、サプライチェーン全体で最適化を目指すべきだと考えています。業界を超えて考えていける枠組みを、先輩とともに作っていけたらと期待しています。

赤澤氏:夢のある未来の話で締めていただきました。今日はありがとうございました。

*WES:Warehouse Execution System/倉庫運用管理システム。WESとは、WMSとWCSの中間的存在と言える、倉庫内の作業や物の管理と倉庫制御の機能を兼ね備えたシステムです。在庫管理、入出庫など作業の管理、マテハン機器など倉庫設備の制御を行い、倉庫内の人や物、設備を総合的に管理します。

なお本対談について、物流ニュースサイト「LOGISTICS TODAY」に掲載されていますので、合わせてお読みください。

WMSの新時代「連携」語る、国内トップ2社が対談
https://www.logi-today.com/532258