掲載・更新日:2023.01.11

近年、物流データへの注目度が高まっています。物流データを分析し積極的に活用するDtoCビジネスの隆盛も刺激になり、ロジザードにもBIツールとの連携や分析を希望する声が増えてきました。物流データが持つポテンシャルに気付く企業が多くなってきた証しでしょう。しかし、多岐にわたる物流データをどのように扱えばいいか、何から始めたらいいか分かりにくい分野でもあります。今回は、物流倉庫業務の改善支援で業界から高い信頼を得ている、トランスフィード株式会社代表取締役の長井隆典氏をお迎えし、弊社取締役の亀田が倉庫業務におけるデータ分析のイロハを伺いました。

物流現場改善に不可欠なロジザードのエクスポート機能

亀田: 「バックヤードのスペシャリスト」と呼ばれる長井さんですが、ロジザードとの関わりも古いですよね。

長井: 会社勤めをしていた時からいろいろなWMSに触れて、ロジザードプラス、ロジザードZEROも使いました。20年ほどEC物流に関わっていますが、10年前、あるアパレル企業の物流現場改善のためにロジザードのWMSを導入したのが、直接のお付き合いの始まりですね。

亀田: その時から、物流データやデータ分析に注目されていたのでしょうか?

長井: 物流データといっても、輸配送から在庫データまで様々です。私は倉庫業務の最適化にフォーカスしたデータの利活用を、支援しています。商品の管理にはいろいろなシステムが関係しています。基幹システムやフルフィルメントなどのバックヤード業務、コールセンターなどそれぞれのシステムとデータを紐づけなければなりませんが、私がコンサルを始めたあたりは、連携作業を自分でやるしかありませんでした。そのため、バーコードとハンディターミナルによるシンプルな在庫管理で、WMS導入直後からすぐにデータを取得できる上、データのエクスポート機能があるロジザードのWMSにはずいぶん助けられました。

亀田: ロジザードも分析機能については、長年機能追加を検討してきました。しかし、分析よりもまず現場にフィットする機能を充実させることが最優先で、最終的にはデータを吐き出すから分析はお任せという方針になりました(笑)。

長井: EC事業の組織は総じて小規模で、一人が何役もの業務をこなさなければなりません。売上やカスタマーサポートなどいろいろな場所から、リアルタイムに正確な情報を知りたいわけです。OMS(Order Management System:オーダーマネジメントシステム)などでも販売データは見られますが、現場には使いにくいデータです。WMSのデータは、実績や実在庫の数値がリアルタイムで分かりますから、知りたい情報がすぐに分かり使い勝手が良いのです。


まず把握してほしいデータは、在庫の動き

亀田: 物流現場のデータ分析に取り組んでこられた長井さんにお聞きしたいのですが、これからデータ収集や分析を始めようという人たちは、まずどのあたりから手を付けたらいいでしょうか?

長井: 商品がちゃんと売上に寄与しているかどうかを見てほしいですね。特に在庫の動きです。ECは、購買セクション(本部)と物流現場(倉庫)が物理的に離れているケースが多いので、「在庫」にまつわる責任があいまいになりがちです。

亀田: 滞留在庫問題がいつの間にか物流側の責任にされているのは、業界あるある話です。「なんでこんなに残ってるんだ!?」と責められても、倉庫から見たら「なんでこんなに仕入れるんだ!?」と思いますよね。

長井: こういう時にデータが活きてきます。在庫数(データ)の動きを見れば、一目瞭然。売れない在庫=負の資産がどのくらいあるのかを意識するためにも、データは有効です。私はいつも思うんですけれど、仕入れ担当者は1週間、1日でもいいから倉庫の仕事を体験すべきですね。仕入れの精度が変わるはずです。


ホワイトボードでできる、データ分析のファーストステップ

亀田: データ分析が注目されてきたのは、物流DXの進度ともリンクしていますね。物流DXが進む組織とアナログ運用のままの組織、その差が拡大してきたと思います。

長井: 物流DXシフトが急激に進んでいるように見えますが、実は多くの物流現場では人海戦術のまま、アナログな運用がまかり通っているのが現状です。経済産業省が2020年10月に発表した調査結果によれば、全体の9割以上の企業が「DX にまったく取り組めていない」または「散発的な実施に留まっている」状況であると、回答しています。システムも使っていない、昔からのやり方を今も変えない、数が増えたら人を増やそう、という発想の現場が圧倒的です。 BtoB物流が中心だった昔は、少々アバウトな管理でもなんとかなりました。ところが大手企業もECに進出せざるを得なくなり、出荷頻度が劇的に増える一方で、深刻な人手不足です。従来の発想が通用しなくなっている、とみんなが気付き始めた感はありますね。

亀田: 物流DXが進まない会社では、何が足かせになっているのでしょうか?

長井: 「物流業務は人が行うもの」という前提が変わらない点でしょうか。物流は、意識変革が起きにくい現場です。大企業でもIT人材が投入されることはまずありません。そもそも、アナログの人がいきなりデジタル化へシフトするのは無理というもの。一足飛びにDX化しようとせず、まずは「紙とペン」の作業をデジタル化する、つまりWMSに置き換えることから始めてみましょう。商品のバーコードをハンディターミナルで読めば、間違いは起きませんし、必要なデータの取得も簡単です。
極論を言えば、システムを入れなくても、ホワイトボードでいいんです。人が関わった時間など、すべての作業を数値で表してみる。データ化=見える化して、数字で仕事をとらえる感覚にみんなが慣れること。これが、DXのファーストステップです。


共通言語として数字を利用する

亀田: ホワイトボードですか! システムを入れなくても可視化できるんでしょうか?

長井: 数字を使って、「今日の入荷数」「今日の出荷数」「稼働人数」「稼働時間」を現場に知らせするところから始めてみてください。要素はこれだけでも、「ああ、今日は何個入ってきて何個出荷して、それを●人でやったから●時間でできた。入荷予定数がこの倍なら、シフトの●人じゃ●時間オーバーになりそうだな」というのを、数字をもとに現場が判断できるようにしていく。「生産性」の可視化です。関わる全員が定量を把握できれば、定数がつかめます。要するにみんなの共通の言語として、数字を使うんです。これはホワイトボードでも十分できます。

亀田: なるほど。数字で共有軸を見つけていくのですね。こうした意識付けや習慣化は、管理者の仕事だと思いますが、管理者は往々にして「分析=システム導入」と誤解しているように思います。

長井: 大切なのはシステムを導入することではなく、情報(データ)をどう見るかです。一般的な物流KPIとして「売上対物流費」や「生産性」がありますが、私はもっと粒度が小さくて良いと思っています。会社によって指標は違うと思いますが、数字を把握することで、現場の効率を考えて自分たちから動き出せる類の指標を設定するといいですね。例えば「保管効率」を指標にすれば、間口単位での入荷時の作業性が向上します。「在庫回転数」を指標にすれば、倉庫側から仕入/購買に対して実績データをもとにアラートを出せる関係性が構築できるようになります。

荷主用ロジスティクスKPIの一例(指標/定義)

売上高物流コスト比率 売上全体に占める物流コストの割合
棚卸資産廃棄損(対売上高) 商品・製品の廃棄に伴って計上した損失
SKU数(1SKUあたり売上高) SKUの増加は輸送、保管効率の低下からコストの増加につながる。
在庫日数(商品・製品在庫) 在庫が何日分あるか表す為に在庫金額を1日当たりの売上高で割ったもの
配送件数(一件当たり売上) 一日当たりの件数を把握して月、年に換算する
滞留在庫比率 販売終了品等の商品で在庫日数が任意設定した一定水準を超えたもの
棚卸差異率 期末棚卸時点での帳簿在庫と実在庫の誤差率
誤出荷率 受注行数に対する誤出荷件数の割合
欠品率 受注行数に対する欠品行数の割合
遅配・時間指定違反率 受注行数に対する遅延。時間指定違反件数の割合
荷傷み発生率 受注行数に対する荷傷み(商品の汚損・破損・品質劣化)発生件数の割合。
返品率 返品金額を総出荷金額で割って算出。

亀田: そうですね。数字を見る習慣が身に付けば、肌感覚で「まずいぞ!」「入荷を止めないと!」という判断が現場から生まれます。

長井: 手計算でいいから、数字を残すことです。今までは、「なんとかなる」「なんとかしろ」で、強引にやってきましたけれど、無理は必ずコストに反映します。みんながこうしているから、こういう数字を見ているから・・・ではなく、自分たちが知りたいことは何かを明らかにして、自社の指標を見つけることが分析の第1歩ですね。まず1年間は「データを貯める」ことからやってみましょう。分析って、地道にコツコツなんです。

亀田: ロジザードZEROでも過去データを1年分は追えますから、物流KPIといわれる指標に関わるデータは、まずは貯めておきましょう。改善効果を計るためにも定量値は絶対に必要で、客観的なデータを共通言語としてうまく利用したいです。

長井: そこからですね。業務全体を定量的に可視化できるようになれば、いかにムダがあるか発見があり、業務の優先付けも容易になります。予測もたちますから明確なアクションができるようになり、その結果、効率化が進みコスト削減につながります。


業務の見直しで標準値を見つけ、共通言語化した事例

亀田: 最近の仕事で、参考になる事例をご紹介いただけませんか?

長井: 地方の物流会社のケースです。地元のパートさんを採用していますが、コロナ禍ではお子さんが通う学校で感染者が一人発生すると、次の日からはパート全員が濃厚接触者で休んでしまいます。人の確保がとにかく困難で、業務に大きな支障が出る現実に直面して、どうにかしたいとご相談いただきました。
まず、定性分析から入り、業務の見直しでムダムリムラの3Mを排除することから始めました。現場の仕事の中には前任からの引継ぎ引継ぎで、慣習として続けている意味の分からない仕事があります。それを見つけて廃止するだけでも、時間を短縮できる。それって本当に急ぎの仕事? 明日まとめてできない? 動線に無理がない? こうした問いを繰り返し、そこから「レイアウトを見直してみよう」「荷物を次の工程にパスしやすい流れにしよう」と変化を持たせていくと、だんだん現場にも基準らしきものが見えてきます。この標準値こそ共通言語です。これをみんなが理解すると予測がたつようになります。動きに無駄がなくなり、少ない人員や午前中だけといった短時間でも、従来並みの生産性を上げられることに気付けます。

亀田: なるほど。数字を共通言語にする上で、特に注意した方がいい点はありますか?

長井: 予測をたてるには、季節的な要素やマーケ戦略なども考慮されなければなりません。物流が孤立しないで、組織として一気通貫しているか、この点が重要です。データを集め始めると、いろいろな部門から現場に対してデータのリクエストが寄せられ、いつしか情報を集めることが目的になりがちです。データ収集に翻弄されないためにも、各部門が欲しいデータは自動取得できる仕組みはあった方が良いでしょう。それがDXの足掛かりにもなりますしね。例えば、残業をなくすためとか、自動化設備導入のためとか、ある程度自社のあるべき姿を想定して取り組むと、データが意味あるものになります。


分析のための物流データを簡単に取得できるツールを開発中

亀田: 物流データの分析は、サステナブルなモノづくりについても考えるきっかけになりますね。アパレル、食品などでは作りすぎによる在庫のロスなども、大きなテーマになっています。

長井: グリーン物流などという言葉も耳にするようになりました。単に物流の問題ではなく、会社の姿勢やコンプライアンスの視点で語られることが多い言葉です。SDGsの観点からも、特にアパレル、食品業界における在庫ロスは切実な問題としてとらえられていて、在庫の逃がし先としてのセカンドビジネスの動きも見えてきました。これからの企業活動は、地球環境に配慮していく必要があり、その点でも物流データの分析は欠かせなくなると思います。

亀田: 企業は、そのあたりにも力を入れていかないといけませんね。WMS側でできる改善のための機能としては、B品出荷機能などは検討できそうです。長井さんは今、分析のためのデータを簡単に取得できるツールを開発中と伺っています。具体的には、どのようなものでしょうか?

長井: WMSを通じて得られる現場の生データを、簡単に分析作業ができるようにするためのレポートツールです。現場のホワイトボードがダッシュボードに代わるイメージです。標準的でシンプル、そして分析結果が具体的なアクションに紐付けられるよう設計しています。プロトタイプはできていますので、これからリリースに向けてモニター運用を重ねます。物流会社のデータをもっとオープンに、ベンチマーク的な存在になるよう、標準値を出せるものに仕上げたいと考えています。 様々なWMSを使い、多くの現場を見てきた自分の知見を活かして、自社のシステム内では難しいことをツールで解決したい。物流DXや分析業務の導入障壁を取り払おうという目的で、使い勝手としてはグーグルアナリティクスのようなプラットフォームをイメージして開発しています。

亀田: 挑戦ですね! たくさんの物流現場、WMSを知り尽くしている長井さんだからこそできる、革命的なツールになりそうな予感がします。「物流に関してはお任せください!」を標榜する弊社としては、ロジザードのエクスポート機能を活用して、長井さんの開発ツールとともに現場業務の見える化に一役買いたいです。

長井: ロジザードZEROから取得できるデータは知り尽くしていますので、もちろん活用させていただきます。


物流業務のイロハがさくっと分かる「ロジカイギ」

亀田: ところで、長井さんは物流マニア(笑)の間で話題の「ロジカイギ(URL:http://logikaigi.com/)」のメンバーでもいらっしゃいます。ロジカイギについて少しご紹介いただけますか?

長井: 物流業界でコンサルタントとして活動している、株式会社リンクスの小橋重信さん、株式会社トークロアの伊藤良さん、私の3人で、「物流系YOUTUBERになろうぜ」という話になりまして(笑)。物流に関していまさら聞けないこと、よく分からないこと、疑問に思うことなどを、分かりやすい言葉で明確にしていこうとコンセプトで、コアな情報を提供するプロジェクトです。物流業務をもっとオープンにしていきたい、という思いで、毎週コツコツとコンテンツを発信し続けています。

【ロジカイギ@通販物流のコア話】

https://www.youtube.com/@logikaigi/featured/

亀田: コンテンツのテーマが明確で、10分程度にまとまっていてすごく分かりやすい。特に「いまさら聞けない」シリーズはなんとなくふわっとしていることが明快に解説されていて、勉強になります。動画で学びたい若い世代に向けて、とても意義のある活動だな、と思います。私も先日ゲスト出演(URL:https://youtu.be/Vudv_n3itvA/)させていただきました。

長井: コメントなどの反応を見ると、社内や周りに物流のことを聞ける人がいないんだなと感じます。物流って、身内で力業を使ってなんとかやってきたせいか、体系的なことがあまり整理されていませんし、感覚で分かっていても語れる人はそう多くはいません。現場は毎日が戦場みたいに忙しいですから、セミナー参加など勉強のために外に出にくい環境でもあります。
ロジカイギの動画コンテンツは、管理者の方や新入社員の方々に、ランチタイムや通勤時間などの隙間時間に気楽な気持ちでさくっと見ていただけます。勉強しづらい、人が育ちにくいのが物流現場の悩み。そこになんらかの貢献ができれば、という思いが、我々の継続のモチベーションです。ぜひ一度見に来てください。

亀田: 今日は物流データの活用、分析についての情報交換ができて、とても有意義な時間でした。ツールのリリースを楽しみにしています。貴重なお話をありがとうございました。