掲載・更新日:2020.03.25

消費者行動の変化により、中小企業の中にもオムニチャネル化を目指す企業が増えてきました。ECと店舗を運営する企業が一番やりたいことは、今ある在庫を共有してEC、店舗のどちらでも販売すること。システムやツールなど、ECを基軸にして語られがちなオムニチャネルですが、実現するためには店舗側の運営体制の見直しも必要です。今回は、オムニチャネル化に向けて店舗側に必要な考え方や具体的な準備について、オムニチャネルや店舗運営に詳しい専門家のお二人に弊社執行役員の亀田がお話を伺いました。

店舗在庫をECで販売したいニーズと、在庫管理の課題

亀田: 今日は、ファッション流通コンサルタントとして多くの中堅アパレル企業をサポートする、有限会社ディマンドワークス代表の齊藤孝浩氏、そしてオムニチャネルコンサルタントの逸見光次郎氏をお迎えして、中小の小売業がオムニチャネル化を目指す際の、具体的なアドバイスを伺おうと思います。
消費者ニーズや社会インフラが激変し、ECや店舗を運営する企業が、今までのやり方では生き残れないことを実感し始めています。当社のお客様からも、「WMSでECと店舗在庫を同時に見たい、一元管理したい」というご相談が増えてきました。

齊藤: 一元管理したいというその理由は何でしょう?

亀田: おそらくオムニチャネル化を意識していて、店舗のバックヤードにある在庫をECでも売りたい、という希望があると認識しています。

齊藤: EC在庫はリアルタイム、店舗在庫はバッチ処理で、これを一つの条件で統合できるかという課題があります。EC在庫は固定ロケーションで商品の動きを管理できますが、店舗在庫はそれが難しいですね。なぜなら、店舗在庫は店頭に出ている商品、補充用の在庫、展示サンプル、見本で出している販売可能商品、取り置き商品、お客様が検討中で持ち歩いている商品など、一つの商品でも様々なステータスがあり、ステータスの変化のたびにデータを移行できるかという問題が生じるからです。例えば、バックヤードから商品を持ち出すたびにデータを通す、読み込むといった「作業」を誰がするのか? 現場での対応はなかなか難しいですよ。

逸見: RFID管理が徹底されているZARAやNIKEのように、あちこちにRFIDゲートやセンサーがあって、商品の通過時に自動認識する、という仕組みができれば可能ですが、中小にとっては非現実的ですね。SKUの多い店舗、例えば靴の専門店などでは、カラーやサイズ展開などバックヤードでのロケーション管理が必要だと思いますが、その他の店舗ではそれほどでもないでしょう。店頭とバックヤードであえて分けなくても、例えば30分とか15分間隔でPOSデータをバッチ処理すれば、店舗在庫の管理もできないことはないと思いますが・・・。

齊藤: そうすると、お客様が持ち歩いているようなPOSを通していない商品が出てきて、在庫データの精度が落ちます。

逸見: 在庫開示の前提として、そうした誤差が生じるというエクスキューズをきっちり提示しておくなど、業務ルールの確立は必要ですね。

齊藤: いずれにしても店舗スタッフへの負担が高くなります。このような負荷を現場にかけてまで在庫を一元化したいのか、という判断は必要です。


店舗に丸投げが、オムニチャネル化を遠ざける

齊藤: オムニチャネルは在庫の開示(情報共有)が重要で、それも正確でなければ意味がありません。お客様が安心して購入できると同時に、スタッフも安心できる正確さが必要です。ZARAでは、店舗スタッフの仕事は商品管理で、原則接客はしません。だから店頭もバックヤードもしっかり在庫管理ができるので、開示が可能です。日本の店舗の場合、商品管理も店舗運営も接客も何もかもが、現場のスタッフに任されています。バックヤード業務が増えたら接客はできなくなる、逆もまた然りで、店舗スタッフに負担をかけざるを得ないオペレーションが、オムニチャネル化を難しくしている要因でもあります。

逸見: どの企業も失敗、課題のパターンはだいたい同じです。人員の少ない店舗に何もかもやらせようと丸投げして、うまくいくはずがありません。ECと店舗在庫を一元化する前に、店舗業務の棚卸しをして業務フローを見直し、店舗スタッフには「アイドリングタイム(余裕)」を持たせること。「常に何か手を動かしていなくてはならない」という責任感が、かえって無駄な作業を作り出している可能性があります。本当に必要な業務かどうかを見極めて無駄な作業をなくすことが必要です。

亀田: オムニチャネル化成功の秘訣は、そもそも現場の作業を減らすところが重要なのですね。なくした方がいい作業を見つけてなくしていくことが第一歩だと。

齊藤: 現場スタッフにとって、負担になっている作業を見つけてあげるといいですね。

逸見: こういうことは、社内からはなかなか言い出しにくいので、外部の人間がヒアリングすることが理想的です。例えば、POSやシステムで本部が数字を見られるデータのレポートは不要ですよね、と第三者が話をすると、無駄なレポート作成業務の廃止にも理解が生まれます。あくまでも人員が足りなくなっている店舗で、いかに本来の接客業務に注力できるリソース、環境をつくるかというアプローチで業務フローを整理する、在庫の一元管理問題はそのあとです。

齊藤: オムニチャネル化を焦って、正しくない在庫数をお客様に見せることがあってはいけません。そうならないよう現場の環境をつくる、仕組みをつくることが先です。チェック表レベルでいいので作業の洗い出しを行う。生産性のある業務以外の不要な作業をしていないか、数十店舗の店舗数がある会社であれば、負担になっている作業TOP3を出し合って、共通している無駄な作業を整理するところから始めるといいでしょうね。

逸見: 在庫管理データって、数字がずれたら誰も信用しなくなる、つまり見なくなるから絶対にずれてはいけないのです。入出庫管理、売上管理、万引き抑止策に加え、承認や評価といった社内制度などの仕組みが回っていないと、正しい在庫を把握するのは難しい。社内環境が整っていないのにお客様に在庫を開示したら、事故発生につながります。


お客様が必要としているかいないかが、在庫の基準

齊藤: 社内だけで在庫数を見られる環境にして、客注品への対応から試してみたらどうでしょうか。

逸見: 一度、店舗のバックヤードに眠っている売れない滞留在庫を全部引き上げてみることをお勧めします。滞留在庫は、その店では売れないかもしれないけれど、一度引き上げて売れる場所に置き換えれば売れるのです。キタムラ時代の経験ですが、決まった日数を超えた店舗の滞留在庫は、「今」必要とされない商品であると認定し、それらはEC倉庫に全部引き取りました。

亀田:不良在庫という表現でなく、「今、店頭に在庫しなくていいもの」という表現は、いいですね。

逸見: そうです。「今」売れない在庫を店で持っている必要はなくて、ECで管理してECにも客注にも対応できるという体制にします。ECでも在庫回転率を見ていて、分類ごとに決めた日数内に動かなければアウトレット、セールなど次の段階に移すという基準で、滞留在庫を消化するのです。


在庫回転率をKPIに店舗在庫を減らし、客注対応に

齊藤: 滞留在庫を減らさないと回転率は上がりません。それに、在庫が多いと仕事が増えます。だからバックヤードの在庫は、在庫回転日数をKPIにしてどんどん少なくした方がいい。今売れない在庫は、自分たちで持たずに「客注対応」にすればいいのです。店舗は在庫がないとどうしても不安になり、売れ筋をはじめ在庫をストックしがちですから、本部はちゃんと補充できる体制を整えておくこと。
そもそも、店頭に商品数が多すぎるのが問題です。店頭のフェイス、商品を置けるキャパシティをバイヤーがちゃんと把握しているかも怪しいですね。100しか置けない棚に、120送り込んだら、残りの20はバックヤードに置かれてそのままになる可能性が高いです。キャパシティに合わない在庫数が送られてきたあげくに「消化率が悪い」では、店舗もかわいそうです。

逸見: 本部の事情で各店舗に振り分けられた商品が、店のバックヤードに積み上げられて在庫になっていることも多いです。置く場所がないから必然的にお店がストック場になってしまう。そういう意味でもEC倉庫はバッファになります。店舗在庫を少なくすれば、その分店側の作業は確実に減ります。こういうことは、売れている時代にはあまり問題視されませんでしたが・・・。

亀田: 店舗の在庫管理に対しても、シリアスになってきたということですね。

齊藤: 売上が「上澄み」だとすると、滞留在庫は「沈殿物」。今までは『上澄み>沈殿物』だったものが、経年とともに沈殿物が多くなって『上澄み<沈殿物』になってきている証しです。

逸見: 沈殿物をどうするかといったら、これは「見える化」して処分するしかありません。一カ所に集めて処理をする。それには、ECと本部のバイヤー業務を分けるのはナンセンスで、一緒にすべきでしょう。売上だけがKPIになっているケースがほとんどですから、在庫回転率も評価対象に加えるのです。

亀田: 一元管理の前に、店舗在庫もちゃんと「見える化」して、滞留在庫を切り分けて処理することが重要なのですね。

逸見: 基準は、お客様が「今」必要としているか必要としていないか。ECにあれば注文できますから、お客様が店頭で受け取りたいときには店に移動できる。小さい店舗の方がうまく回していけると思います。

亀田:オムニチャネル化をどうするかより先に、客注にしっかり対応できるようになること、まずはそこを目指すのですね。

齊藤: 社内、店舗同士での情報開示、共有が先です。お客様に在庫を見せられるようになるのはそのあとです。


想像力を発揮し、店舗ならではの接客に注力する

逸見: お客様にとっては、店がオムニチャネル化できているかどうかが重要なのではなく、欲しい商品を「いつ」「どこで」受け取れるのかが大事で、極論をいえばそれだけです。欲しい商品が決まっていれば、SKUを絞り込んで注文できるネット注文の方が、お客様には便利です。でも、店舗には店舗である意味がある。それは横の広がりや他の商品への気づきです。インターネット上で客注を受け、店舗で受け取れるようにさえすれば、店舗には新たなチャンスが生まれます。

齊藤: ネットで事前注文から店舗受け取りの流れの中で、スタッフはSKUから商品を特定し、この商品を購入されるお客様はどのような人だろうと想像力を働かせて、購入されたものにあわせてリコメンドできるような商品を準備してお迎えできますよね。「ご注文いただいた商品に合わせて、このような商品もお好みではないかと思いご用意しました。いかがですか?」といった接客ができれば、たとえその場での購入に至らなくても、お客様との関係性も深まりますし、リピート来店のきっかけにもつながります。

亀田: これは、店舗にしかできないアプローチですね。

齊藤: 無駄な管理作業を排除できれば、接客にも注力できるようになります。逆に、アイドリングタイムを生み出さない限り、こういったアイディアも出てきません。

逸見: 無理にオムニチャネル化を目指す前に、ECと店舗在庫の「見える化」にむけて、まず店舗の運営環境を改善する。そのことから生み出される利益は、少なくないと思います。

亀田: 当社は、倉庫管理と店舗の在庫システムをシームレスに連携させる『ロジザードZERO-STORE』をリリースしています。今日のお二人のお話から、システムの機能に必要な要素や、現場でお困りのお客様に対するアプローチのヒントをたくさんいただき、さっそく業務に活かしたいと思います。勉強になるお話をありがとうございました!

今回のお話いただいた内容はあらためて編集し、『ほぼ月刊ロジザード』にも掲載してご紹介いたします!