掲載・更新日:2019.12.11

映画やドラマ、書籍、音楽の「●●放題」など、定額制でコンテンツを自由に利用できるサブスクリプションサービスが大人気です。その活用領域はソフトウエアを超え、洋服やファッション雑貨、自動車や家などの耐久消費財に至るまで拡大。サービスが身近になるにつれ、モノの「所有」から必要に応じての「利用」へと、消費スタイルの変革が進んでいます。その中で今、乳幼児向け知育玩具のサブスクリプションが注目されています。「なぜおもちゃをサブスクに? 在庫管理はどうなっているのだろうか?」との疑問と興味から、弊社執行役員の亀田が、「トイサブ!」を運営する株式会社トラーナ代表取締役の志田典道氏を訪ねました。

知育玩具をもっと自由に試せたらいいのに...。
アメリカの事例を参考に定額レンタル事業をスタート!

亀田: 今日は、おもちゃのサブスクリプション事業のパイオニアである、株式会社トラーナの志田社長をお訪ねしました。そもそも、なぜこの事業をやろうと思われたのか、きっかけから伺えますか?

志田: トラーナを起業して乳幼児向け玩具のサブスクリプションをスタートしたのは、2015年のことです。僕自身が、8歳を筆頭に4人の子育て中の身なのですが、当時は2人目の子どもが誕生した時期でした。初めての子どもの時って、ベビー用品やおもちゃをお祝いでいただくことが多いですよね。2人目の時に、初めて自分でおもちゃを買おうと思ったら、キャラクターライセンスのグッズばかりが売り場に並んでいて、愕然としたのです。欲しいのはこういうものではないと、違和感がありました。それで、もっとシンプルなおもちゃや知育玩具を探したのですが、あることはあってもアイテムが少なかったり高額だったり。「これを買っても遊ぶかな?」という不安が常に付きまといました。

亀田: 分かります! 高価なものを買って、遊んでもらえなかったりすぐに飽きられたりしたら、すごくがっかりします。

志田: 自分の子どもが興味を持つかどうか、買う価値があるのかどうか、判断できないですよね。いろいろ試せたらいいのに、と思いました。2015年頃には、すでにアメリカでモノのサブスクリプションサービスが始まっていて、おもちゃでこれができないかなと思ったのが、事業スタートのきっかけです。選定された上質なおもちゃを、成長に合わせて定額で定期的に届ける、子ども向けレンタルサービスを考えました。

亀田: 日本でサブスクリプションという言葉を聞くようになったのは、ここ1,2年です。2015年から定額制というビジネスモデルを導入されたとは、ずいぶん早かったですね。特に知育玩具は、教育上よさそうだと思ってもそれなりの価格ですから、なかなか手を出しにくいおもちゃです。借りて遊ばせられたら、親としてはうれしいです。

志田: ブランドバッグのラクサスさんや、洋服レンタルのエアークローゼットさんと、ほぼ同期生です(笑)。彼らのやり方やアメリカでの事例を参考にしながら、事業を始めました。乳幼児向けのおもちゃは、ミスマッチが起きやすい市場です。購入するのは大人で、子どもに与えてみるまで反応が分かりません。しかも成長につれ、すぐに遊ばなくなります。使われる時間が非常に短いので、循環して使った方がよいアイテムなのです。実は、子どもの年齢や発達過程に応じた玩具の選び方は世界的に研究されていて、論文も多数発表されています。メーカーでも、適性月年齢やその玩具で狙う効果などを示しています。こうした資料やユーザーの声をもとに、年齢に合わせておもちゃの組み合わせをキュレーションし、定期的に交換する方法を考えました。


ECと比較すると複雑な、レンタル商品の在庫管理

亀田: サブスクリプションの概念がない時代に、新しいビジネスモデルをローンチされるのは、大変だったのはないでしょうか?

志田: 始めたのが早かったので、メディアにはよく取り上げられました。しかし、一般にはまだ定額制サービスが認知されていない時期で、疑問点や不安点、否定的な「サービスに対するNO」を一つひとつつぶしてYESに変えていくという、「NOのコミュニケーション」の日々が続きました。

亀田: NOのコミュニケーションですか! 当社も創業期には、クラウド(当時はASP)サービスを知らない層に向けて、NOのコミュニケーションを長い期間続けてきましたから、そのご苦労は想像できます。ところで、ロジザードは「在庫管理」という側面から商品の流れを見ているので、サブスクリプションの在庫の仕組みに、とても興味があります。レンタル品は、どのように管理されているのでしょうか?

志田: レンタル品は一つひとつの状態が異なるので管理が難しく、ECに比べて在庫管理は複雑だと思います。多くの商品が、本体とパーツの組み合わせで構成されます。本体はシステム上で管理できても、パーツはシステム管理向きではありません。紛失や破損リスクが高く、レンタルの返却・発送のつど、パーツを揃えたり壊れたものを修理したりといった作業が必要だからです。

亀田: 複数のパーツがセットになっていて商品ごとに状態が異なる、次にレンタルできる商品かどうかの判断に、人が介在しなければならない... 確かに複雑です。メンテナンスが、在庫管理と密接にかかわってくるわけですね。

志田: 私はもともとエンジニアで、前職でリファービッシュ(修理・再生品)を手掛けた経験があります。おもちゃもメンテナンスのオペレーションさえ確立できれば、再利用できる状態に修復できるものが多いと、やっていくうちに分かりました。今は、スタッフが手作業でメンテナンスをしています。サブスクリプションモデルで玩具のリファービッシュをやるところはあまりないので、その技術やノウハウも当社の財産になっています。

亀田: 何人くらいで作業されているのでしょうか?

志田: 常時10名ほど、主婦のパートの方が洗浄部隊と修理部隊に分かれて、社内でメンテナンス作業を行っています。電子玩具の基板の修理も、彼女たちがやります。女性は、手先が器用で細かい作業が得意な人が多く、はんだ付けなども普通にこなしますよ。

亀田: 自社でメンテナンスできるのは、強みですね。品揃えについてはいかがですか? 成長に合わせた玩具を、どの程度在庫として保有し回転させていくか、これも管理が難しそうです。

志田: 今、当社のメインユーザーは0歳~1歳児です。この年齢児のデータは多く集まっているので、在庫基準はある程度確立できています。私たちは、商品を配送する際には必ずアンケートをとり、次の配送時にはリクエストに応えるよう、セットを組んでいます。プランニングをするのは、プランナーと呼ばれるスタッフで、現在在宅を含めて6名います。彼女たちが、アンケートに対するコメントや質問への答えなど、一つ一つ丁寧な回答でコミュニケーションをとっています。こうした1対1のコミュニケーションが、満足度を高めているのでしょう。解約率は月3%程度で、低く抑えられています。返却される商品の状態や、ユーザーから寄せられる生の声がエビデンスとなり、適正な仕入れや在庫の基準を考えるベースになっています。

亀田: ターゲットは3歳児くらいまでですか?

志田: メイン事業の「トイサブ!」は、0歳~3歳児を対象にしています。平均契約期間は20~24カ月です。昨年、4歳~8歳までをターゲットに「トイサブ!プラス」というサービスを試み、5歳児までは遊びと学習を関連付けるニーズがあることが分かりました。6歳以上、つまり小学生になると習いごとに移っていくようです。


ユーザーの生データをもつ強みを活かして・・・

亀田: 4年間にさまざまなデータを集められていますが、こうしたユーザー情報は、今後活用していくお考えがあるのですか?

志田: データを使ったビジネスということですか? 私たちが得るエンドユーザーの感想や耐久性などの情報は、メーカーにとって価値のある情報だと思っているのですが、今の玩具業界にはあまり響かないようです(苦笑)。

亀田: え? データに興味がない?

志田: データの重要性を理解する会社もないわけではないのですが、基本はプロダクトアウトの発想です。メーカー、卸、小売店という構造はいまだに健在で、エンドユーザーが好む(小売ウケする)商品を大量に作り、大量に卸せればそれでよしという古い体質のままです。子ども向け基礎玩具の市場規模は約5,000億円で、男児向け、女児向けがそれぞれ2,000億円、知育玩具などを含むその他が1,000億円といわれています。2018年度の報告書 (※注)によれば、この18年間で過去最高の5,436億円を記録したそうです。子どもの数は年々減少しているにもかかわらず、強力なキャラクターの存在、対象年齢の拡大や高単価化、ポケット(お財布)の増加などの要因から、市場は成長、拡大しているわけです。このような状況ですから、まだしばらくは今のスタイルのまま変わらないでしょうね。
(※注:一般社団法人日本玩具協会調べ 参照:www.toys.or.jp/toukei_siryou_data.html

亀田: 感度の違いは大きいですね。人口が減少し、社会構造や消費志向が大きく変わっていく時代に、データを重要視しない業界は危うい感じがしますが...。

志田: 業界プレイヤーの方と組みつつ、自分たちでやろうという方向で、データを活用していくつもりです。

亀田: 自社生産の計画とか?

志田: はい。中国での生産と、中国や台湾でのビジネス展開を視野に入れて、事業計画を練っているところです。

亀田: 台湾はよさそうですね! 市場規模は日本の四分の1といわれていますが、日本人の感覚と近いものがありますし、越境ECビジネスでも、台湾に進出されるお客様は多いですよ。

志田: 子どもも約20万人いますから、台湾は十分に我々のターゲットになり得ると思っています。それから、教育投資意欲の高い、上海や深センなど中国の東のエリアにも注目しています。すでに知育玩具のレンタル業者は存在しますが、サブスクリプション型ではないので、挑戦する価値はあると思っています。

亀田: 時期的なことなど、具体的な計画はあるのですか?

志田: 日本国内でのユーザー数を拡大することが先決です。自社生産や海外進出は、次のステップとして見据えています。とはいえ、あまりのんびりもしていられません。国内のユーザー数を今の2000人から2万人に増やし、2,3年後には海外での生産に着手したいと思っています。


サスティナブルな社会への貢献

志田: 将来的に実現したいことは、もうひとつあります。基板にある電子部品の再利用です。電子玩具に使われている基板は、大量に作られて大量に廃棄されています。サスティナブルではありません。これをなんとかしたいです。

亀田: 基板の再利用ですか!? おもちゃの寿命を延ばすことができるサブスクリプションモデルを採用されたのも、根底にある考え方はやはり環境への配慮ですね。

志田: シェアリング・エコノミーで、廃棄されるおもちゃを少なくしようとしているのですから、自社生産でも大量廃棄につながるものづくりはNGです。自分たちの作ったものを世の中に出すのなら、たくさんの人に長く使ってもらえるよう、考える必要があります。ならば、再生可能な木製玩具などに特化すればよいのですが、データを見ると、1歳から1歳半の時期の子どもは木のおもちゃから関心が離れて、光るもの、音が出るものに興味が移ることが分かっています。この時期は反復行動に興味を持つ月齢で、ボタンを押すと光ったり音が出たりする電子玩具の貢献度は大きい。無視できない電子玩具を環境にフィットさせるには、電子部品の再利用が鍵を握ると考えています。


アウトソースしにくい業務課題を、真似のできないノウハウという武器に転じる

亀田: 2カ月に一度、返送と発送という作業があると思いますが、物流面での課題はありますか?

志田: アウトソースしにくいことですね。返却、チェック、洗浄、修理、セット組み、発送という当社のオペレーションを引き受けられる外注先は、今のところありません。ユーザーの拡大に合わせて、自分たちでオペレーションを効率化しながら広げていくほかないのが、目下の大きな課題です。

亀田: 人がかかわることで高い評価を得ているビジネスモデルだけに、悩ましいですね。

志田: ロジスティクスオペレーションは労働集約型であるにもかかわらず、人と場所の獲得、運営を自社でやっていかなければなりません。今後、2万ユーザーを目指していく中で、スケーラビリティをどこまで自社で担保できるか? 何をコアにして、どこまでの業務をどう切り分けて効率化を図るか、全体最適を考えて整理していく必要があります。

亀田: アウトソーシングにもメリット、デメリットがあります。御社の場合は、物流の流れの中にノウハウが凝縮されています。自社運用は大変ですが、それだけに他社が真似できない部分でもあり、参入障壁にもなります。ロジザードでいえば、365日対応のサポートサービスが、それにあたります。「お客様の業務を止めない!」という強い理念で、自社運営を20年継続しています。外注しようと思えばできたのかもしれませんが、結局その継続がお客様との絆を強くし、他社が真似できない一番の強みとなりました。今日、お話を伺っていて、自社メンテナンスとエビデンスに基づくセット組みの部分は、物流の一環といえども外に出してはいけない「核」なのではないかと思いました。

志田: ありがとうございます。おかげさまでパートタイムで働く方の採用には課題がまだ少ないので、もう少し人の力で頑張れそうです(笑)。ただし、品質管理とコスト管理、このバランスは重要です。返却されたおもちゃは、次のセットに組み込まれるまでの期間が2,3日と、とても短いサイクルで展開できています。ボリュームが増えてもこのサイクルで回せるよう、メンテナンスの基準も設ける必要があると考えています。どうしても「完璧」に仕上げたい思いが強くなりがちで、どこまで修理するのか、通常稼働できるレベルはどこなのか、ここを明確にしないと事業としてコストがかかりすぎてしまいます。また、今はユーザーとの1対1のコミュニケーションが成立して満足度につながっていますが、どこまでこの体制でいけるかも課題です。

亀田: 採用に苦労されていないとは、素晴らしいです。社会性のある事業で、子育てという自分の経験が活かせること、「幸せな親子時間を作る」という企業ビジョンも、働き手の中心である主婦層の心を打つのでしょう。おもちゃのサブスクリプションを支えている、丁寧な自社メンテナンスやキュレーションのノウハウは、他社にはなかなか真似ができないと思います。志田社長のエモーショナルでありながら、ロジカルな思考と戦略に感銘を受けました。当社の仕組みで、複雑な在庫管理の一部でもなにかお手伝いできないか、検討します! 今日は貴重なお話をありがとうございました。