掲載・更新日:2019.10.21

少子高齢化による労働人口の減少は、今や物流業界に限らず、あらゆる産業界で深刻な働き手不足問題を引き起こしています。そんな中、求人・求職を新たな視点でマッチングさせるアプリが、特に若い世代に利用されているのをご存じでしょうか? 人材を"1日単位 "で"必要な数だけ"確保できる国内最大級 のデイワークアプリ「ワクラク」は、派遣とも求人広告とも異なる、新しい人材マッチングの手法。採用コストをかけずに今すぐ人手が欲しい企業と、自分の希望するタイミングで働きたいワーカーをつなぐことで、急成長しています。「人手不足に悩む物流業界の救世主になるのでは!?」との思いを胸に、弊社執行役員の亀田が、ワクラクを運営するWakrak株式会社代表取締役の谷口怜央氏を訪ねました。

「明日、絶対に仕事がある」というセーフティネットとして機能させたい

亀田: デイワークアプリで急成長のWakrak代表の谷口社長は、現在20歳。17歳の時に会社を立ち上げられました。その経緯はさまざまなインタビューで語られているので今日はあえて伺いませんが、なぜ人材のマッチング、デイワークをビジネスにされたのか、この点についてお聞かせください。

谷口: 採用が物理的に難しくなっている世の中の状況に加えて、働く側の意識に変化が起きています。こうした現状の中で働き手不足の問題を解決するには、デイワークしかないと思いました。僕らが目指しているのは、「明日、絶対に仕事がある」という安心できる状態を、働き手に用意することです。僕は、人は安心があれば「人が人らしく」心に余裕を持って生きられるのではないか、という仮説を持っています。ワクラクは「必ず仕事がある」という安心を提供する、つまり仕事に関するセーフティネットとして機能させたいと思ってやっています。

亀田: セーフティネットですか。

谷口: 仕事というと、場所も時間も束縛されるイメージがありますよね。自分のペースで働きたい、自分のタイミングでシフトに入りたい、という希望をかなえられる職場はなかなか見つけにくいので、仕事へのフラストレーションを溜める人も出てきます。「人が人らしく」心に余裕を持って生きられなくなってしまう。でも、働きたいタイミングで働きたいという人にとって、デイワークは自分で働きたいシフトを自分で自由に組みたてられるメリットがあります。ワクラクのデータでは、ほとんどの登録者が1日6~7時間働いていたり、同じ職場をリピートしたりと、たぶん働き方そのものは今までのアルバイト登録のような形と変わりません。でも、シフトに組み込まれるのと、自分が入りたい時に自分の意思で入るのとでは、主導権が全然違う。ワクラクは、求人と人材の供給が、今までとはまったく真逆な発想で構築されています。

亀田: 登録されている方は、ワーカー側、企業側、それぞれどのような属性でしょうか?

谷口: 現在、ワーカーは8万人が登録しています。若いユーザーがメインで、20代が7~8割を占めています。18~24(学生)が30%、24~34歳が30%、それ以外が40%という割合です。今は飲食系企業の求人が圧倒的に多いのですが、イベント設営やEC、コールセンター、データ入力などの事務作業など少しずつ幅が広がってきていて、導入企業や店舗のアカウント数は3,000件を超えています。

亀田: あらかじめ必要な日程と人数が分かっていれば、早くから募集をかけられると思いますが、ワクラクでは最短でどのくらいのタイミングまで求人ができるのですか?

谷口: ワクラクは、ほぼリアルタイムで集められます。過去には、最短で1時間前の募集でのマッチング実績があります。明日人手が欲しい!という、通常の求人なら難しい緊急事態でも、前日ならだいたい集まります。早めに未来の日程を提示してももちろん集まりますが、通常は募集がはじまって該当の日の2~3日前に集まる傾向があり、前日には決まるという感じです。

亀田: 企業側から見ると、「この日に絶対に人を確保しておきたい」というニーズがあると思うのですが、前日まで確定しないことに、不安の声がありませんか?

谷口: デイワークのマッチングでは、確かに企業が不利な仕組みになっているかもしれません。でも、働く側が有利なことを前提に仕組みを作らないと、人材難は解決しません。これは僕が企業を回って、理解していただくよう努力しているところです。実際には、企業側とワーカーのマッチング率は90%を超えています。企業側が求人を掲載してすぐに人が集まる即時性が、満足度の向上につながっています。


ここ半年で人材難が一層深刻化

亀田: 実際に求人してみたらすぐに決まったという実績が、企業の利用促進につながっているのですね。でも、最初は理解を得るのが難しかったのではないでしょうか?

谷口:最初の1~2年は企業には断られてばかりでした。それでも、この半年で風向きが明らかに変わったと感じます。働き方改革やブラック的な職場環境がフォーカスされるようになって、求人募集が一気に難しくなり、僕らの提案も受け入れられやすくなりました。

亀田: ブレイクスルーのようなタイミングがあったということでしょうか?

谷口: スタートから2年間、コツコツとコミュニケーションを継続することで、企業に理解されてきた実感はありますが、なによりも人手不足の深刻度が、格段に高まりました。僕らの提案時期が少し早かっただけで、時代が追い付いてきたのだと思います。競合企業も増えました。


必要なのはデイワークを通じて得られるデータの蓄積

亀田: 競合企業が生まれる中で、御社が「この点では負けない」と思っているところは何でしょうか?

谷口: ワクラクの強みは、ユーザーの質を担保しているところです。ITの力を使って、働いた人のデータや相互評価のデータを大量に蓄積して、分析し、マッチング精度を高めています。今後は適用する業界を広げて、それぞれの業界専門のワクラクを作っていこうとしています。僕らが目指すところそのものが、競合企業との差別化につながると思っています。

亀田: 実データは重要ですね。情報のフィードバックなどもされていますか?

谷口: 働く側と採用側、双方の評価データの蓄積こそが肝です。これまでの人材紹介は、企業と人材がマッチングしたらそこで終わりでした。ワクラクは、マッチングした時の働いた後の感想や評価を蓄積することで、マッチング精度をさらに深めて最適な仕事をつなげていこうとしています。今までは「数」を集めることに主眼を置いていたので評価はクローズでしたが、ある程度の量が集まったので、近日中には双方の評価が見られる仕組みに変えていくつもりです。

亀田: 評価は大事ですよね。登録者の中にはちょっと・・・という人もいて企業側からクレームが来るようなこと、あるいはその逆のようなことはありませんか?

谷口: あるにはありますが、それほど多くはありません。今は性善説を前提に運用していますから、評価が著しく悪い人や企業は「利用停止」という処置をとります。ただ、僕はそういう情報もプラットフォームルールとして、エコシステムの循環の中に組み込みたいなと思っています。例えば、バイトテロのようなことをする人は、企業にとって大きなリスクです。でも、現状はその人が他に転職しても「前科」はバレにくい。企業がこうしたリスクを避けられるよう、ワクラクならではの安全性、人材品質の担保という点で、他の企業に働き手の評価情報が連携されるようにすれば、つまりコミュニティで囲ってしまえば、企業ニーズとのバランスで、悪意ある登録者もさすがに評価の重要性に気付くのではないか、これを通じて働き手の意識も矯正できるのではないかという仮説です。

亀田: クレジットカードの信用情報の共有のようなイメージですね。

谷口: そうです。クレジットカードの信用情報が蓄積されることで、いずれ貸し倒れがなくなるように、信用情報の共有は双方にとってメリットがあると思っています。ですので、ネガティブな情報もプラットフォーム上の循環に組み込めたらいいな、と考えています。


物流とは相性がよいはず、なのに・・・

亀田: 今は、飲食店や販売店(ショップ)の需要が多いようですが、物流に関してはどのようにお感じですか?

谷口: 物流は、ワクラクと相性がいいはずです。人手不足の危機感も非常に強いはずですが、僕の印象では、企業側が「どうせ集まらない」とはじめからあきらめて募集をかけずにいるように見えます。

亀田: あまりワクラクが利用されていないのですね。物流会社が「どうせ集まらない」とあきらめている理由は、どこにあると思いますか?

谷口: ネックはたぶん場所でしょうね。

亀田: ああ、やはり・・・。多くの物流倉庫が、簡単には行けない場所にありますからね。

谷口: でも、実際に募集していただければ、ワクラクでは集まります。流山でも集まりましたし、1日10名の募集も集まりました。波動時のような短いニーズや繁忙期などに、もっと積極的に活用してもらいたいです。今は、物流企業の事例が少ないので理解されにくいのですが、駅から遠い立地でもしっかりと人が集まっている。事例を見ていただくためにも、最初は大手の物流企業を巻き込むことが大事だと思って、営業強化中です。

亀田: 特に人材募集に投資ができない中小企業が、人手を集められずに困っています。募集コストがとても低く抑えられるワクラクなら、マッチするのではないかという期待があります。

谷口: まず、募集をしてみないと現実が分かりません。リスクは小さいですから、「どうせ来ない」とあきらめずにTRYしてほしいですね。

亀田: ECなどは月曜日の出荷が特に多いのですが、物流現場には「その日だけ人手が欲しい」というニーズが確実にあるので、ワクラクは向いているはず。物流企業に、ワクラクのサービスをもっと知ってもらって、使ってみていただきたいですね。

谷口: 物流の現場は、昔から「日雇い」という働き方が定着しています。作業系の仕事なので、コミュニケーションが苦手な人も働きやすい。最近は外国人労働力が増えている業界ですけれど、本音をいえば「日本人に来てほしい」という会社もあります。そういう会社には、ぜひ試していただきたいです。

亀田: なるほど。テクノロジー的なマッチングだけではなく、アナログ的なアプローチも物流業界には必要な気がします。


働く人に主導権のある人材マッチング

谷口: 属人性の高い仕事や個人のスキルに依存する仕事のマッチングは、実はワクラクにとってまだハードルが高い部分です。企業が来てほしいと思う理想の人材、スキルを保有しているかということまでマッチングできるよう、例えば、エクセルやワードなどと同様に、使えるツールの選択肢を提示する機能も、プラットフォーム上で実現したいと思っています。

亀田:ツールの使用経験は大事な情報ですよね。レジの種類などはキャッシュレスも加わって、今、ものすごく複雑です。ツールでいえば、物流現場でロジザードZEROを使ったことがあるかどうかも、即戦力になるかどうかの判断基準になりそうです。

谷口: 大切な情報ですね。ただし、僕らが考えているのはあくまでも働く人に主導権があるマッチングです。例えば、ロジザードZEROでの出荷経験がある人なら、自分から「ロジザードZEROがある場所で働きたい」という意思に応えるマッチングです。働いた後に、こういうツールを使った仕事だった、ということをレビューしてもらうようにすれば、よりマッチング精度も高めていけると考えています。

亀田: 評価はどのように集めているのですか?

谷口: ワーカーからの入力はできるだけシンプルにしています。Amazonのレビューに近いものですね。レビューへの書き込みが多いほど、その人個人の評価が高くなり、条件のよい案件が優先的に表示されるようなアルゴリズムにして、レビューの促進をしています。企業側のレビューは、やはり「適正な人材が来るようにする」ことを前提に回答いただいています。あるいは、「こういう人は好まない」ことも教えていただきます。これをAIに学ばせて、最適な人材に対して募集情報が出るようなアルゴリズムを作っていきます。

亀田: 評価から得た情報をAIで学ばせて、マッチング精度を高めていく。そのために利用者双方のデータの数、量が必要なのですね。ところで、御社では大型の資金調達をされていますが、目的はやはりこうしたIT系の設備投資でしょうか?

谷口: アプリの開発と営業に資金を投じています。デイワークアプリが、仕事のセーフティネットとして機能するには、どれだけ領域を広げられるかだと思っています。現在は飲食業が大半を占めていますが、先ほども触れた通り、将来的には業界特化型のワクラクを展開していきたい。今、大手事業者とのJVで、ある業種でプロトタイプを作る計画が進行中です。しかし、業界別にワクワクを立ち上げるには、データがまだまだ必要です。そのためにもっと多くの人、たくさんの業種にワクラクを使ってほしいです。20代のみならず、30~50代の登録者を増やすことにも注力していきたいですね。

亀田: 事業者が直接求人することができて、結果がすぐに出るというのは画期的です。求人広告などとの棲み分けのようなことは考えていらっしゃいますか?

谷口: 求人広告のようなオールドスタイルとの共存は難しいと思いますが、派遣会社とは連携できると考えています。製造派遣やイベント派遣など、そもそも「日雇い」の働き方文化がある業界とは、親和性が高いと思います。物流業界も同じですね。ただし、ワクラクは「日雇い派遣」とは似て非なるものです。ワクラクは、あくまでも働き手が、自分の人生を大切にすることを優先して、働くことも主体的に決めることができるプラットフォームです。プライベートと仕事を考えた時、若い人たちは自分が実現したいことが先にあるものですが、仕事に日常のほとんどが縛り付けられて、自由なことをする時間がない。人間が人間らしくあるためには個人が「実現したいこと」を優先する必要があると思っています。その実現のために、ワクラクが提供するデイワークの仕組みがセーフティネットとなることを理想としています。同じ「1日だけ働く」でも、目指しているものが違うことは、事業者の方に理解していただきたいところです。

亀田: 企業側も時代の変化を受け入れて、自ら考え方を変えていかないといけませんね。物流業界も、人材確保の課題はもう待ったなしです。ロジザードのお客様とワクラクは相性がよいと思いますので、双方の課題解決のために僕らも積極的につなげていきたいと思います。

谷口: ワクラクの領域を拡大できるよう、アプリの開発を強化するための人材を、もっと増やしていきます。感度の高い人が集まっていますし、実行スピードも速いと自負しています。デイワークアプリのパイオニアとして、生産労働人口の減少に、働く側の視点からアプローチしながら、「働く」定義を変えていこうと思います。

亀田: 会社としてのWakrakさんの成長が、楽しみです。物流現場の働き手不足解消にも、一筋の光が見えた気がしました。まずはワクラクを使って募集してみたらどうですか?と、お客様に勧めてみます。今日は貴重なお話をありがとうございました。