掲載・更新日:2019.10.08

モノが溢れ、購買行動が多様化する中、顧客が望む商品を的確に届けられるかどうかが、企業成長のカギを握ります。消費者にとってオムニチャネル化・O2Oは、もはや当たり前の時代。店舗運営する小売業は、時代に後れをとらずに進化できているでしょうか? ファッション流通コンサルタントとして多くの中堅アパレル企業の躍進をサポートする、有限会社ディマンドワークス代表の齊藤孝浩様は、ファッション業界の川上から川下までを経験し、いずれのフェーズでも重要なのは「在庫の最適化」だと確信したと語ります。在庫には一家言ある弊社代表の金澤が、オムニチャネルやO2O時代を生き抜く秘訣について、在庫視点からきりこみました。

川上から川下、どのフェーズでも悩みは「在庫問題」だった

金澤: 齊藤さんは、ファッション流通コンサルタントとしての実績が豊富で、『ユニクロ対ZARA』『アパレル・サバイバル』といったご著書でも有名です。そもそもこの事業を始めたきっかけはなんだったのでしょう?

齊藤: 独立前に勤めた会社は4社あります。最初は商社で、海外製品の輸入に関わりました。その関係で、ヨーロッパブランドの日本法人の立ち上げスタッフとして商社から出向し、輸入とライセンス生産を行いました。その後、リテールを肌で感じたいという気持ちが強くなり、渡米しました。アメリカでは、日本から買い付けに来るバイヤーさんたちをアテンドして、買い付けたものをまとめて出荷する会社に勤めました。いわゆるシッパ―です。そこで知り合った多店舗展開する中堅アパレル企業からバイヤーとして招かれ、帰国して小売りの仕事を始めたという経緯があります。

金澤: ファッション業界の川上から川下までを体験されていらっしゃいますね。

齊藤: はい。商社時代には営業として、お取引先がなかなか引き取ってくれない、倉庫にある山のような在庫をどうやって引き取ってもらうかに頭を悩ませていました。海外ブランドの日本法人の時代は、実は販売力以上の仕入れ計画でライセンシーの権利をとった経緯があり、とにかく在庫過多でした。物流を担当していたので、毎月倉庫の拡充をお願いしているようなありさまでした。

金澤: 海外ブランドは、販売目標をコミットメントさせられるので、こちらが「いらない」と言っても、どんどん送りこんできますからね。

齊藤: 倉庫の在庫は増えるばかりで、しかたがないから各部署の若手メンバーで、客先にこっそり催事などで売りさばいていたこともありましたね。でも、一番大変だったのは、アメリカから帰国して携わった小売りの現場です。靴の在庫管理にてこずりました。靴は洋服以上にサイズがピッタリ合わないと買ってもらえません。私はバイヤーとして入社しましたが、在庫が膨らんだタイミングで引き継いだために、それを消化しなければ仕入れ枠がないという、「買えないバイヤー」状態でした。だからなんとしても在庫を売り切らないといけない、商品は人気がありよいものだから売れるはず。そう思って自分でも週末は店頭に出ました。現実は、複数の店舗にサイズが歯抜け状態で点在しており、各店の販売員は、自店に在庫がなければ「ない」とお断りするしかありませんでした。完全な販売機会ロスです。

金澤: サイズ別在庫がデータで把握できていなかった・・・。

齊藤: そのとおりです。そこで、全店舗の在庫を商品ごとに何回かに分けて引き上げては、サイズを揃えて再度各店に送り込みました。JANコードを付け変えて、サイズまで全店の在庫が見えるようにしました。半年かかりましたが、自店にサイズがなくても別の店舗にあることだけは分かるようになり、客注が取れるようになって売上が上がり、ようやく在庫を消化できました。ここで、今につながる多くの学びを得ました。

金澤: 具体的に聞かせていただけますか?

齊藤: なぜ、どのフェーズでもこうした「在庫問題」が起きるのかを考えたわけです。在庫は、お客様の需要と現場の商品がマッチせずに流通過程で滞留し、エンドまで届けることができないものです。必要なところに必要な商品があれば、流通在庫は発生せずに売り切ることができます。小売り現場で的確なマッチングをして売り切れば、メーカーも在庫が残りません。店は売上が上がればキャッシュフローが回ります。お客様も欲しいタイミングで商品を手に入れられるのだから嬉しい。みんながハッピーになる!と気付いたわけです。これは、私にとってパラダイムシフトで、今まで在庫に対してネガティブな見方しかしていなかったのが、ポジティブな視点に転換した瞬間でした。売り切る仕組みを構築すれば売上が上がる、粗利も得る、在庫は減る、お客様は喜ぶ、バイヤーも新しいものを仕入れられる、の好循環を実体験して、同じ悩みを持つ企業は少なくないだろうと思い、独立して今に至ります。


在庫は経営の根源。利益の源泉にもなるし、リスクにもなる

金澤: 私も、売り切る仕組みを作ると会社全体がポジティブに変化することは、アパレル企業時代にアウトレット事業を通して経験していますので、とても良くわかります。在庫は経営の根源で、在庫がないと売上も立たず利益も出せません。付加価値を生む唯一の源泉ですが、扱い方次第でリスクにもなります。

齊藤:「在庫は利益の源泉にもなるし、リスクにもなる」。たしかにそのとおりですね。メーカーや問屋は在庫で倒産しますが、小売業は、消費者との直接の接点を持っているので、販売を実現することで在庫を売上に換える事ができます。利益が残るかは別ですが、とにかくキャッシュは得られる。どう運用するかが大事なポイントです。アパレルは、食品のように腐るわけではありませんが、シーズンがあるから鮮度が大切です。1年後の同シーズンに出しても、お客様には分かります。定価では当然売れない。価値があるうちにキャッシュに換えないといけません。


その一品をお客様の手に届ける情熱、最後の1点まで売り尽くす執念

金澤: 御社では、「その一品をお客様の手に届ける情熱、最後の1点まで売り尽くす執念」という理念を掲げられています。とにかく最後の1点まで売り切ること、これに尽きますね。

齊藤: 靴の在庫を売り切って、自分の仕入れ枠を作った時の経験に基づくもので、人財育成のポリシーでもあります。その一品をお客様に届けられなければ、お客様はがっかりします。店は売上を逃して利益が出ない。在庫も減りません。最後の1点が在庫としてたくさん溜まると、管理も大変だし、全体の在庫回転が悪化します。まずは在庫を洗い出して、最後の1点を必要なお客様の手元に届くようにすること、それを全社的に意識付けていくことが大切です。

金澤: 在庫が残ると、店が新鮮に見えません。売り尽くしてしまえば常に新しい品が棚に並びますから、お客様には店頭の新鮮なイメージが伝わり、プロパーの売上も上がります。店頭の鮮度を保つには、売り切るか棚から抜くかしかないのですが、抜けは滞留在庫となり、結局商品に投じた資金が固定化されるので、経営が良くなりません。


商品は店頭に並んだ初日に一番価値がある

齊藤: 「個体管理の重要性」が、金澤社長との共通認識だと感じました。在庫とデータを一致させることがとても大切で、これができていないと在庫は減らないと思います。商品は、仕入れて店頭に並んだ初日に一番価値があり、毎日どんどん価値が下がって鮮度が落ちていきます。カラーやサイズがなくなり、売りづらい内容になって、次のシーズンに持ち越したら定価では売れません。在庫数の少ないものから、「その一品をお客様に届ける」情熱を発揮していくと、キャッシュフローも在庫回転もよくなってきます。

金澤: 仕入れ代金は払った、バイヤーは売れると思って仕入れたけれど店が売らないから残ったといい、店はバイヤーが売れない商品を仕入れたからだという。全社の活動の結果として滞留在庫があるわけで、責任の所在を求めるのが難しいところがありますからね。

齊藤: 在庫を売り切る義務がどこにもないために、売れると思って抱え込む店舗が多いと感じます。店舗の在庫が過剰になると、入荷検品、品出し、バックヤードの整理など、接客以外の仕事が増えてしまいます。店舗作業の軽減からも、在庫の最適化は必要です。最後の1点までお客様の手に渡るよう売り切る、という情熱を持ち続けるには、今どこに何がどのくらい在庫としてあるのかが、すぐに分かるようでなくてはいけません。在庫がデータ化されているかは大前提ですが、データと在庫がきちんと合っているか、データの精度も重要です。

金澤: 実在庫とデータが100%合っていないと、誰もデータを信じなくなりますからね。逆に、自分が見ているデータと目の前の在庫数が一致すると、「この在庫をどうにかしたい」とアクションを起こしたくなる。商品が売り切れていくのは快感ですから。現場の体験を通じて在庫管理業務を経験できれば、それはものすごくパワフルなスキルとして活かせます。在庫管理の重要性が共通認識としてあることが分かって、嬉しくなりました。そこで伺いたいのですが、齊藤さんはO2Oについては、どのような見方をされていますか?


お客様を巻き込んで在庫最適化する時代

齊藤: 僕は歓迎しています。「すべての消費者が一目ぼれした商品を確実に手に入れることができる世界」が、小売業の理想形と考えているのですが、そこに近づいているとワクワクしています。以前は、お客様が店舗に来ることを想定して在庫を用意する、現場が事前準備をすることが販売の前提でした。O2Oで在庫データにお客様がアクセスできるようになると、在庫をお客様が確保してくれたり、在庫がある店に自分から出向いたりしてくれるようになります。商品を気に入ったら、確実にある場所までお客様自ら出向いてくれるのです。お客様を巻き込んで在庫最適化する時代になってきたな、と感じています。

金澤:「お客様を巻き込んで在庫最適化」ですか。それは面白い視点ですね。結局小売業は、販売機会ロスをどれだけなくすかが勝負です。商品がどこにあっても、欲しい人にちゃんとマッチングさせてあげることが重要ですから、現物管理ができていれば、アイディア次第でどんな売り方もできるようになります。

齊藤: 自分が動いた方が早い、と思うお客様も実際にいらっしゃいます。リアルタイムにオンラインで在庫管理ができていれば、お客様の需要と在庫のミスマッチを起こさずに、確実に「最後の1点まで売り尽くす」ことができると思います。僕は、小売業の誰もが、1品をお客様に届ける情熱を大切にし、最後の1点まで売り尽くす執念を持っていれば、関係者すべてがハッピーになると信じています。O2Oは、在庫情報を開示してお客様が自ら在庫を探せるようになると、よりパワーを発揮するようになると思います。

金澤: 在庫をリアルタイムで確認できる仕組みを構築しないと、お客様の購買体験を台無しにしてしまうし、会社は知らない間に機会ロスをして、在庫を増やしてしまうことになりかねませんね。

齊藤: ある新店オープンの前に販売員研修をした時のことですが、良い購買体験と嫌だった購買体験を発表してもらいました。すると、「自分が欲しい商品がその店になくて、在庫を親身に探してくれたこと」を良い購買体験として挙げた人が多かったのです。取り寄せや発送の提案、中には「競合店にあることが分かりましたのでよろしければ」と言われた経験がある人もいました。ちなみに一番嫌だった体験は、「買わないと分かったら態度が変わった」が圧倒的でした(笑)。お客様が欲しい商品を手に入れる手助けをすること、「そういうことをしてくれるお店」とお客様に思っていただくのが、O2O時代における店舗の存在意義だと思います。在庫が見えないとこうしたお手伝いはできません。消費者は、他店でそうしたサービスを受けた経験があると、できない店舗を信頼しなくなります。O2O以前の話ではありますが、販売員がお客様の購買のお手伝いをできる環境にすることが、必須だと思います。

金澤: O2Oは大手のものだけではありません。小規模であってもそのサービスを念頭におくべきでしょう。テクノロジーが進化して、在庫をお客様が見られる仕組みはできるので、あとは正しく在庫管理ができるのかという本質のところが求められてきます。O2Oを推進するために、メーカーや販売、3PL企業が今からできること、やるべきことについてはどう思われますか?

齊藤: 欲しいと思っているお客様にいかにタイムリーに届けるか。ここを追求することが、定価販売ができてキャッシュフローを生み、在庫が減って会社が豊かになる肝だということを、関わる人が共通認識として持った方がいいですね。大きな投資をしなくても、さまざまなサードパーティがアプリを提供していて、中小でもO2Oに取り組みやすい環境ができています。お客様との接点である小売業がリーダーシップをとって、サプライチェーンにビジョンを示し、理解を得る動きをすることが必要です。販売現場を最適化して川下が整わないと、上流の川上まで改善できません。


キャッシュレスはマスト。過去の非常識が常識化する

金澤: 特に中小企業の方には、ECとキャッシュレス決済をちゃんとやってみたらどうですか、ということを訴えたいですね。オンライン、オフライン両方の「手」を持たないと、オムニチャネルもO2Oも始まりません。地方などは特に商圏が小さくなり、店舗に来られる人だけを対象にしていたら商売になりません。そこに来られない人にどうやって商品を届けるか、といったらやはりオンラインでの発信は重要です。3PLは、お店からお客様に届ける手段として活躍します。そして、キャッシュレス決済にはとにかく早く手を付けて、慣れておくこと。この波に乗れなかった小売業は、マーケットから消える可能性があると感じています。「やらないと死にますよ」のレベルです(笑)。

齊藤: まさに、サバイバルですね。社会の進化には、お客様の方が先に順応します。オンラインで情報をとってからお店に行くことが当たり前になり、キャッシュレスも当たり前になる。過去の非常識が常識に変わる、時代の流れをキャッチしていかないと、生き抜いていけません。

金澤: 「その一品をお客様の手に届ける情熱、最後の1点まで売り切る執念」に、大いに共感しました。在庫の話で盛り上がれる人ってなかなかいないので、ぜひ在庫あるあるの話題で一杯やりましょう! 今日は貴重なお話をありがとうございました!


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