掲載・更新日:2019.09.13

日系メーカーのサプライチェーンを取り巻く環境は、グローバル化が進むにつれ複雑化の一途をたどっています。各国の物流拠点となる倉庫では、部品や製品などの資産を正確に把握し管理することが重要な課題です。しかし、こうした課題解決のために、海外拠点で業務システムを導入することは、そう簡単ではありません。安易に日本のやり方でシステム導入を行い、思った通りの効果が得られない事例もよく聞かれます。そこには、現地駐在員のITスキルや日本からの支援の有無など、システム導入に関する様々な阻害要因があるようです。
海外に計32拠点を展開するTOTO株式会社(以下、TOTO)様では、このたび台湾の拠点である「台湾東陶股份有限公司(以下、台湾東陶)」様にロジザードZEROを導入されました。運用を軌道に乗せ、業務改善の面で大きな効果が生まれています。本社主導でシステム導入に成功した要因とは? 当社執行役員の柿野が、実務に関わられた3名のご担当者にお話を伺いました。

世界各拠点の物流課題に対応する「グローバル物流推進部」

柿野: はじめに企画主査の加藤さんに伺いたいのですが、御社の組織編成について興味があります。皆様の所属は「物流本部 グローバル物流推進部」ですが、TOTOグループにおける部署の位置付けや発足の目的をお聞かせいただけますか?

加藤: 弊社はますます海外売上が伸長していきます。日本国内で培った物流改善・革新ノウハウの展開をグローバルに加速させるため、2016年10月に既存の組織名称を変更し、グローバル物流推進部となりました。もともと、社内で物流に関する困りごとやニーズを聞いて、物流のスペシャリストである我々が支援をする、という業務を行っていました。これをグループ全体に拡大し、グローバルな視点で物流にフォーカスした課題に対応する部署として再編しました。

柿野: グローバル物流推進部の中に、革新グループと技術開発グループがありますね。それぞれのどのような役割を担うのでしょう?

加藤: 島田が所属する革新グループは、主にグローバル拠点における現場の業務改善を実務レベルで行います。松尾と私が所属する技術開発グループは、ロジスティクス分野について専門で研究する部署です。例えばロボティクスに代表されるハードや、物流システム全般の調査研究・企画・検討・導入・運用支援を行います。グローバルと名が付きますが、あくまでも主体は「物流」です。国際感覚や語学力よりも物流に精通していることが重要で、システムや現場、倉庫管理、輸送管理のプロフェッショナルで組織されています。

柿野台湾での導入(事例) では、導入前から本社の社員(今回は島田氏)が台湾に入り、現地スタッフと一緒に業務フローの見直しから始められたと聞きました。

加藤: そうですね。本社から一方的にシステムを入れるということはしません。業務改善は、現地スタッフと同じ目線で現実を見て、一緒に考えて話し合いながら、課題解決の最適解を出していこうという立場で取り組むようにしています。私たちも現地から学ぶことがたくさんあります。

柿野: ある国で得た経験値を、他の国にノウハウとして活かす仕組みもあるのでしょうか?

加藤: 月に数回、各拠点で行われている改善施策のフィードバックを共有するミーティングを開いています。情報共有から生まれたアイディアをヒントに、他の地域に展開することもあります。

柿野: グローバルでのWMSをはじめとした物流システムの導入状況は、どのようになっていますか?

加藤: WMSは物流のインフラとして必須だと考えており、ゆくゆくは全拠点に入れていきたいと考えています。ただし、WMS導入はシステムありきではなく、現場の業務改善策を合わせて運用することが重要です。欧米はもともとシステム好きな国民性で、導入に抵抗はなく特に問題はありません。しかし、東南アジア諸国にはまだあまりシステムが入っておらず、倉庫管理は手作業中心です。現場の業務改善とセットでの導入が効果的ですので、必要に応じてWMS導入前から革新グループが支援に入ります。技術開発グループは、導入支援はもちろん稼働後の運用を日本から見守り、必要であれば遠隔サポートする体制で進めています。


海外拠点ならではの物流課題とは?

柿野: 今回、台湾東陶にWMSを導入するきっかけとなった大きな課題は、在庫差異と業務改善だったと聞いています。直接担当された松尾さん、島田さんにお話を伺いたいのですが、海外拠点ならではの物流課題にはどんな特徴があるのでしょうか?

松尾: 現地では、システム運用を任せられる人財(※)が少ないケースがほとんどです。物流に限らず、業務システム導入全般にいえますが、駐在員は本来の仕事の比重が大きく、システムを導入しようと思っても片手間ではなかなか進みません。だからといって日本からエンジニアを数カ月派遣して導入・稼働させても、その人が日本に戻ったらわかる人がいなくて使えない、業務改善の効果が出ない、ということになりがちです。

柿野: これは、アジアの日系企業を訪問して回っている時に、よく目にする光景です。システムを導入したいという想いはあっても、実際に導入に向けて手を動かす人材がいない。そして結果的に、エクセルを使った物流管理から抜け出せていない日系企業が多いですね。【本来の仕事が忙しくてシステム導入による仕事の効率化が実現できない】→【アクセスなどを使ってアナログの物流管理を続ける】→【作業精度が悪いので、結局日本人マネージャーが最終チェックする】→【さらに仕事が忙しくなる】。こんな悪循環で疲弊している日本人駐在員の方をよく見かけます。

島田: 国によっては、効率化を求める日本流のやり方が受け入れられないことがあります。業務改善のベースとして、「解決すべき課題を認識している」のが前提です。「拠点の売上を伸ばしたい」、「在庫差異を少なくしたい」、「教育も含め人財(※)にかかるコストを極力抑えたい」。本社としては、これらの課題を解決するためにシステムを導入して業務改善を図ろうとします。ところが、この考え方を現地スタッフは最初から理解できません。台湾でもそうでしたが、彼らにとっての課題(問題)は「出荷ができない」こと。私が、効率の悪さや在庫差異などが問題だから改善しよう、というアプローチでWMSの話をしても、「今、ちゃんと出荷できているのだから問題はない。システムは必要ない」と考えるので、話がかみ合わないのです。

松尾: WMSの導入を目的にすると、必要性が伝わらないですね。

島田: そこで言い方を変えました。「台湾東陶は日々改善を重ねてとてもよくやっているけれど、もっと良くなるにはどうすればいいか、僕が描く夢や理想を話してもいいですか?」と切り出し、「在庫は極力少なくしたい、どうすればそれが実現できるだろう」と問いかけたのです。すると、スタッフから「在庫管理をしっかりしなくちゃいけない、どこに何があるのかが見えなくちゃいけない」と、WMSが必要となる要素がいっぱい出てきました。「それなら、必要な機能があるWMSを使おうよ」と、現場スタッフ自らが欲しいと思える流れを作りました。

松尾: 現地スタッフのモチベーションに訴えて、主体的に課題を解決したいという意欲を引き出せたのは、島田がWMS導入の2年前から台湾に頻繁に出向き、現地スタッフとコミュニケーションがとれていたことも大きいです。

柿野: 私がASEAN地域でロジザードZEROの提案を始めたころ、現地での滞在歴の長い物流会社の社長に、「日本とASEANの倉庫で何が一番違うか分かるかい?それは、作業員が日本人じゃないってことだよ。」と言われたことをよく覚えています。その後、色々な物流会社や製造業の現場を訪問して、実際に導入してみて、その社長の言っていたことが実感として分かりました。日本人の感覚で当たり前にできることが、現地スタッフにはできない。日本人には使い勝手のいいシステムが、難しくて使えない。そんな現場がたくさんありました。ただこれは、「能力の差」ではないのですよね。前出の社長の言葉を借りれば、【受けてきた教育の差】なんです。主体性を持ってもらい、そして改善のヒントを与えてもらい自分で考えること。現地スタッフの方々は、これらの積み重ねでキチンと業務がこなせるようになります。管理をする日本人の側が、この教育という視点を持って導いてあげることができるかどうかがすごく重要だと思います。


デモ環境で使いやすさを直感したロジザードZERO

柿野: 今回のWMSの選定は、本社の技術開発グループにて実施されましたが、どのようなプロセスでシステムを選定されましたか? 日本国内で使われている自社WMSの海外利用や、台湾で販売されている現地システムも検討されたのでしょうか?

松尾: 日本で使っている自社WMSは、国内に4カ所あるデポ(物流センター)の要望に合わせて、それぞれチューンナップされた状態で利用しています。各拠点に最適化されすぎていて、そのままでは海外では使えないので、最初から展開する気はありませんでした。日本で展開されている色々なWMSを検討するにあたり、他の地域でも運用できること、運用管理上できればサーバは現地に置きたくないという希望でリサーチし、4社のサービスが候補として挙がりました。そして、各社から製品の特長などの説明を聞いた上で、4社の製品をデモ環境で実際に使って比較検討しました。入荷・出荷、在庫関連、商品マスター管理など重要な機能を、現場が使うことを意識して触りました。
台湾のベンダーからの提案もありましたが、我々が希望する期間で導入できないとわかっていたので試しませんでした。

島田: 松尾さん!比較検討を始めてかなり早い段階から、「ロジザードがいいよ」って強く勧めてくれましたよね。いい機会なので、その理由を聞かせてくださいよ(笑)。

松尾: 僕はモノを選ぶ時の自分の直感を信じていて、ロジザードはデモ環境で一通り触った段階で、「あ、これいけるな」という感触があったんですよ。導入するとなったら、島田さんや現地のスタッフがわかるように説明する必要があるじゃないですか。だから、機能は一通り見ておこうと思って、ほとんどの機能を実際に試したんです。提案資料を並べるだけではなく、作業現場をイメージしながら実際に触って比較検討してみた時に、「このシステムならいけそうだ!」と実感しました。

柿野: WMSを提供している会社の人間がこんなこと言うのはどうかと思いますが、機能一覧で比べたらWMSなんてどこの会社も一緒ですよ。いや、機能一覧だけで見たら、当社サービスは劣っているかもしれない(笑)。ただ大切なことは、システムは導入して終わりではないということです。直感的な操作性やサポート、アフターサービスなど、現場が心地よく使い続けられるサービスが提供されるかどうか。WMSは物流現場改善の一つのツールに過ぎない訳ですからね。


業務フローがない!

柿野: 今回、台湾東陶でWMSを導入する際の苦労や、やってみて気付いたことなどはありますか?

松尾: 事前の準備をしっかりした上で実際に運用を始めてみたら、「いままでより効率が悪い、やり方が変わって非効率になった」という声があがりました。フリーロケーションでの在庫管理という考え方について、日本側と台湾の現場側で意思の疎通が図れていなかったことが原因でした。

島田: 従来は、モノがありさえすればどこから商品をピックしてもOKでしたが、システムは「ここから取りなさい」という指示を出します。現実的には目の前に必要な品物があるのに、システムの指示に従うと目の前ではなくてあえて遠い棚に取りに行かなくてはならず、「効率が悪いじゃないか」と。準備不足と機能の理解不足です。品物の管理方法を変えて問題は解消しましたが、理解を促すのに苦労しました。

松尾: そもそも業務フローがありませんでしたからね。島田が2016年に現地に入って、まず業務フロー作りをやってくれました。

島田: 業務フローがないまま仕事をしていることに驚きました。聞き取りが大変で、1週間近くかけて業務の流れを聞き出しました。特に、イレギュラー対応をどうやって引き出すかは苦労しました。

柿野: よくわかります!私たちがアジアでシステム導入する時に苦労するのが、この業務フローが無い状態です。システムを検討する際に業務フローを見せてほしいとお願いすると、製造業の現場も物流現場もたいてい無くて、逆に作ってくれと頼まれることもあるくらいです。

島田: ロジザードZEROを入れるにあたって気付いたことですが、導入のタイミングで自社の業務フローを見直すとよいと思いました。標準機能に当てはまる業務、当てはまらない業務の洗い出しを行う際、当てはまらない業務は本当に必要な仕事かどうか、振り返りのきっかけになりました。

柿野: 確かにそうですね。私たちもクラウド型でWMSを提供していますので、極力カスタマイズをせずに、できるだけ標準機能を活用することで、低価格・短納期を実現できます。クラウドサービスのメリットを一番享受できるパターンですね。システムの導入は、"業務の棚卸"をして業務フローを見直す絶好の機会だと思います。


日本のサービスを海外に導入する際に気を付けること

柿野: 台湾でロジザードZEROが稼働してしばらく経ちますが、今も日本側で台湾の在庫の動きなどを見ていらっしゃいますか?

松尾: 今も時々問い合わせが来るので見ています。

柿野: 松尾さんが社内の問い合わせに対応してくれるので、当社のカスタマーサポートは実は楽をさせてもらっています(笑)。海外拠点でシステム導入した際に、日本側でも対応できる人がいるとよりスムーズにシステムが定着していきますね。現地の駐在員の方もスタッフも、社外だけではなくグループ内に相談できる人がいれば安心ですよね。
導入後も海外拠点の方々から色々と相談を受けていると思うのですが、やりにくいと感じることなどはありますか?

松尾: やはりシステムに関するコスト意識が違う点でしょうか。物流に限らず、システムは論理的に破たんしていなければ、どんな希望にも応えられるものと思っています。ただ、システムを作るにはコストがかかります。想定以上のコストがかかるとわかると安易に「やらない」という選択肢を選びがちです。しかし本当は、コストだけではなく改善効果やその他のメリットデメリットなど費用対効果を勘案して、ベストな着地点を見つけることが大切だと考えています。すべてのシステム案件に共通する、やりにくいけれどやらなければならないことです。

島田: 日本にいると状況が見えづらいので、毎月できるだけ現地に入り、細かい調整を行いました。行く時は2,3週間滞在して、機能を円滑に運用できるようにレイアウトを変えるなど、現場で一緒に作業しましたから、やりにくさなどの不満はあまり出なかったかな。

柿野: 海外にいる駐在員の方や現地スタッフの人達と向き合ってきちんと対応していることが、素晴らしいと感じます。海外拠点にシステムを導入する話が持ち上がった場合、日本国内のシステム部門の方が主体になることもありますが、そもそも日本の仕事だけでも忙しい部署ですから、海外とのやりとりにあまり積極的に取り組めないことが多いと思います。そして多くの場合、現地と密なコミュニケーションがとれないまま、システム導入の話自体がうやむやになったりしますよね。日本側がきちんと海外を向いて、現地の現場の人とコミュニケーションをとることがとても大切だと、御社の事例を通じて痛感しました。

松尾: あと、海外拠点にシステムを導入する上で、クラウドサービスであるメリットは非常に大きいです。実際、台湾東陶では専任のシステム管理者がいなくても在庫管理が成り立っています。必要に応じて日本側がサポートしますが、現体制で十分機能しているので、専任を置く必要がありません。今後、他の海外拠点へのシステム展開も検討を始めていますが、こういう状況で広げていくのが理想です。


海外プロジェクトは少数精鋭のチーム編成が成功の鍵

柿野: 物流の現場業務を熟知するシステムエンジニアは、とても少ないのが現状です。松尾さんのように物流現場を理解した上でシステムの要件定義できる人は日本国内でも希少な存在で、海外拠点でとなれば人材状況は一層深刻です。そういう中で、グローバル化を指向する日系メーカーが業務システムを展開する際はどうしたらよいか、今日のお話でそのヒントをいただけたように思います。まずは、島田さんのように業務に精通し、システム導入の前の地ならしを現地で行い、現地スタッフとコミュニケーションをとれる人材を育成することが重要だと感じました。システムは遠隔からでもなんとか支援できますが、業務フローや現場の運用は、現場で一緒にやっていくことで定着しますから。

島田: 日本から業務改善支援に入る時には、現地のスタッフに信用してもらうことが何より重要だと思っています。コミュニケーションを積極的にとって、心を開いてくれたらそこからがスタート。お互いの人間性がわかった上でプロジェクトを進めるのは、国内であろうが海外であろうが同じです。現地の人を理解する、自分を理解してもらうということが一番大事かな、と思います。

柿野: 関係構築のための期間も、システム導入プランの中に組み込むことが重要ですね。
最後に、物流のグローバル化を目指している企業の皆様へのアドバイスをいただけますか?

松尾: 海外拠点へのシステム導入は、少数精鋭のチームでやるといいと思います。たくさんの人が関わると、情報共有も意思疎通も時間がかかりますし、コストも膨らみます。コミュニケーションの線は、多くするのではなく、少ないパイプを太くしていく方が、プロジェクト成功の近道です。外科手術でチームが組まれるように、少人数のプロフェッショナルがそれぞれの役割を、責任を持ってきちんとやることが大事だと考えています。

柿野: 貴重なお話をありがとうございました。我々もクラウド側WMSというサービスを通して、日系企業の海外拠点の業務改善に貢献していきたいと思います。


※TOTOグループで働くすべての人々は「次世代を築く貴重な財産である」という考え方から、「人材」ではなく「人財」と表記しています。


最後にTOTOミュージアム内を見学させていただきました!TOTO様の水まわり商品の歴史が展示されており、ここでしか購入できないオリジナルグッズも販売されています。


TOTO株式会社

1917年(大正6年)創立
福岡県北九州市小倉北区に本社を置く、衛生陶器をはじめとする住宅設備機器などの製造販売を行う、大手メーカー。
近年は、世界中のお客様にも豊かで快適な生活文化をお届けしたいという想いから、海外への事業拡大を積極的に進めている。
https://jp.toto.com/