掲載・更新日:2019.03.27

EC市場の拡大、オムニチャネル化の進行により、物流オペレーションが複雑化しています。特にアパレルの世界では、アウトレットやECなど販路を求めてのチャネルの拡大に、在庫管理の現場が複雑化。深刻な人手不足も叫ばれる中、アパレル物流の現場は今後どうなっていくのでしょうか?
ファッション業界、IT業界、物流業界の現場で長年培った体験をもとに、アパレル物流のコンサルとして今や引っ張りだこの株式会社リンクス代表取締役の小橋重信氏を迎え、同じくファッション業界出身である弊社代表の金澤が、アパレルと物流の潮流と未来について、熱く語り合いました。

アパレル企業での上場と倒産、そしてIT企業への転職

金澤: 私も元々はアパレル出身ですが、小橋さんもスタートはアパレルメーカーですね。

小橋: イタリヤードという京都のアパレルメーカーに、新卒で入社しました。「アパレル業界のセブンイレブン」などといわれ、その時代としては先進的な販売管理手法が注目された会社です。私が入社して5年後には上場を果たし、年商160億円規模に成長しました。私も2つのブランドの責任者として、MDや店舗運営を任されていました。DCブランドが絶好調で、作れば売れる時代です。出荷先は百貨店中心でしたが、セールをやればきれいさっぱり在庫が消えていく状況でした。

金澤: バブル景気の後半あたりですね。

小橋:そうです。バブル崩壊の影響が出てきて個人消費が冷え込むと、百貨店倒産を含めて低迷しました。作れば売れる時代しか経験していませんから、セール以外在庫処分の方法がわかりません。最後は山のような在庫を抱えてキャッシュが回らなくなり、入社10年目で会社は華々しく倒産しました。それも突然、たった1本の電話で終わりを告げられて、ブランドマネージャだった私は、東日本エリア管轄の40店舗に閉鎖の電話を入れることに・・・。2度とアパレルはごめんだと思いました。(笑)

金澤: 在庫過多で資金繰りができずに倒産・・・。そういうブランドを多く見てきました。私がいたアパレルは、出荷先がファッションビル系でわりと地味なビジネスをしていて、バブル期に派手に儲からなかった代わりに、大きな痛手も受けずに済みました。会社が倒産して、小橋さんはどうされたのですか?

小橋:再就職活動は苦戦続きでしたが、「これからはITだ」とIT業界に絞り、ここでソニーの通信サービス事業であるbit-driveの法人営業を行うことになりました。ソニーの名刺を持って、ネットワーク構築を含むインフラの提案営業をするので、ITやインターネットがわからないと始まりません。図書館と実践で勉強に励みました。一方で、イタリヤードで2年後輩だった物流会社のオーティーエス(以下、OTS)の田中優一郎社長と交流が続いており、ある時、アパレルとインターネットの両方わかる人材が必要な案件が複数あるということでお誘いいただき、OTSに転職しました。

金澤:具体的にはどのような案件だったのでしょう?

小橋:当時はまだガラケーでしたが、ファッション通販サイトが立ち上がり、OTSに運営のオファーがあったのです。また、商社系の基幹システムとWMSを連携させるプロジェクトも進行していて、ファッションもITも両方わかる人間がいないとプロジェクトが進まない状況でした。

金澤:あの通販サイトですね!まだまだ回線も遅い時代に始まったECの走りですね。
私は、中学生時代から親がマイコンを所有していたこともあり、コンピュータに馴染みがありました。アパレル企業への入社の際、履歴書の趣味欄に「コンピュータ」と書いたのがきっかけで、インターネットやシステム関連の担当を経験しました。そもそもファッション業界の人は新しいものが好き。エモーショナルな人の方が、新しいものに対する感性は鋭いし、ITもそういう感性でとらえると、見えてくる世界が変わりますね。

小橋:IT系の事業は、時代の先頭にいますからワクワクしますね。先行して波に乗っていると、あとから来る波に押されて勝手にどんどん前へ前へと進めます。先端にいればいるほど、楽に遠くまで早く行けます。後追いで流行りに乗ろうとしても難しい。波に乗れないどころか、跳ね返されてあきらめてしまいます。「早いものには乗っておく」。これは、ソニー時代に学んだ、重要な人生訓です。


より深刻化する在庫問題

金澤: それにしても、在庫が足かせになっている会社がいまだにありますが、とにかく作り過ぎ!

小橋: かつては、クリアランスセールで50%オフにすれば必ず在庫はなくなり、半期に一度必ずリセットできるのがファッション業界の常識でした。時代は変わり、セールしても売れないのに、ファストファッションなどの登場で今や生産量は消費の倍あるといわれています。要は半分が売れ残る=滞留在庫です。アウトレットの登場や郊外型ショッピングモールの出店も、この状況に輪をかけました。特に最近では、プロパーとアウトレットを扱う会社が別会社、別組織になり、作り手が最後まで責任を持つことがなくなりました。アウトレットに売ったらそこで終わり。しかもアウトレット店舗は増えていて、専用商品も作られますから、結果モノが溢れて在庫が残る構図です。

金澤: 低価格化とオーバーストア。これが、在庫過多の理由でしょう。人口の減少という時代背景もありますが、実際は売上を立てるために売り場を増やし、売り場を埋めるために、売れる数よりも過剰に作りすぎているのが大きな原因だと思っています。 


ITで物流を戦略化し、在庫をコントロール

小橋: 消費者の購買活動も多様化して、リユースやレンタルにも抵抗がなくなっています。アメリカのリテールが規模を縮小し始めましたが、今後は日本も同様の動きが出てくるでしょう。しかし、ECにはまだまだ伸びしろがあります。店舗の売上が止まったことからECへの流れが加速していますが、なにはともあれ作りすぎないことが重要です。販売予測、在庫管理、SCMを駆使して需要を見極めなければ、在庫問題はECでも解決できません。

金澤: 在庫は、究極をいえば総需要にプラス1点あればOK。従来はこの総需要が、人の「勘」や「経験値」に委ねられていたので予測精度は低いものでしたが、これからはAIなど最新のテクノロジーで精度は高まっていくでしょうね。

小橋: 例えば、ZARAのファスト戦略、「売り切り」です。週に2便、スペインから世界中に空輸するので物流コストは莫大ですが、受注予測と早期展開ですべて売り切りますから、これは戦略としてありです。物流を「コスト」から「戦略」に転換した好例です。従来は商物分離でよかったのですが、今後は一体化が必要です。サプライチェーン全体を俯瞰して、全体で最適化するのです。こうしたことがオンデマンドでできるのも、ITの力。物流を味方につけて戦略化していけるかどうかが、これからのECの明暗を分けると思います。物流をコストでしか見ない人たちは投資をしませんから、どんどん遅れて、気付いた時には市場からの撤退を余儀なくされるでしょう。

金澤: ZARAは、あらゆる点で先進的です。プロダクトと在庫視点でものづくりを徹底しています。総需要を推測するためには、顧客接点(チャネル)を制し、コントロールすることが肝。店頭の在庫もECで売りたいならば、ECと店舗を分けていたらダメだということで、すべての在庫が一元化されるはずです。POSシステムを超えた店舗のスマート化の促進が、大きな流れとして見えます。物流業界も「3PL」の名が示す通り、下請けではなくパートナーとして、クライアントの繁栄にどう貢献するかがモチベーションとなるような関係性にならなければいけません。


オムニチャネルとデジタルマーケティング

金澤: 今は、オムニチャネルといっても店舗の在庫をECで売る、というケースが大半だと思うのですが、EC側からO2Oのような動きが出てきています。IT投資ができない企業は、今後はかなり難しい局面に立たされるでしょうね。ITにより顧客との商品接点が増えることで消費行動が変わったのだから、販売側の手法も変えなければ。伝統やブランドだけでは生き残れません。製品を売ることにテクノロジーが欠かせなくなります。どんなに良い商品でも、時代から取り残されたら事業継続は難しい。これからECに着手するところは大きな努力が必要ですが、せめてそこには追い付かないと生き残れないでしょう。物流会社がロボット化に着手しないと淘汰されていくのと同様です。

小橋: いまさらプロダクトアウトの発想ではダメですね。普通の消費行動にインターネットがあり、進化は不可逆です。消費者側が進化しているのに、見ないフリをしているところが多いと感じます。店頭での人による接客が本当に顧客満足につながるのか、という点も検討すべきです。考え方によっては、デジタルシナリオに沿って動くAmazonのお節介リコメンドの方が、消費者にとっての満足度が高いということもあり得ますから。

金澤: 小橋さんのお話を伺っていて、オムニチャネルとは単に商品の受け取りや返品の問題だけではなく、購入体験のコントロールであることに改めて気付きました。顧客が望む方向で提示される接客のIT化、つまり「売り方革命」なのですね。自分たちの知恵や工夫が競争力になる・・・。例えばビームスなどのRFIDの採用は、好例ではないでしょうか? 自分たちの在り方をITで再定義していることで、余力が生まれて新しい施策にどんどんチャレンジしています。今われわれは新しい時代の幕開け、ビジネスが変わる分岐点にいるということです。これは本気で早く取り組まないといけません。

小橋: ZOZOはツケ払いの導入で、従来の購買層とは違う若年層を広く獲得することに成功しました。これこそ、顧客心理のツボを押さえたテクノロジー活用です。モノが売れない時代と嘆いているけれど、お客様の心理に寄り添ってほんのちょっと工夫することで、道が開ける。そして今は、テクノロジーの力を使えます。だからこそ、ITに投資ができるかどうかが企業存続のカギを握ると思うのです。大きな流れや構造が変わる現実から目をそむけていては、危険です。

金澤: 時流を読み、可能性を見出して行動するところが残る。これはいつの世もそうです。オムニチャネルも、10年後にはごく当たり前の販売方法になっているでしょう。


守りから攻めのIT投資へ

金澤:企業の成長に、変化は避けられません。組織も人も、パラダイムシフトが必要です。自分の業務にITをあわせるのではなく、テクノロジーにあわせて自分たちがビジネスを変えていくことが重要ですね。もはや避けられない波なら、先頭に乗っていく。波の先頭にいれば、あとから来る波に押されて楽に前に進めるという小橋社長の言葉は説得力があります。

小橋: 日本では「守り」のITが主流ですが、GAFAに代表されるように海外の企業は「攻め」のIT投資をします。お客様が「欲しい」タイミングに商品をどう届けるかは、物流がITでどのように攻めに転じていくかがカギを握ります。時代の変化のスピードが速い今、先行企業のアドバンテージは大きく、逆にいつまでも様子見をしていることは、死に至るほど危険であることを知ってほしいと思います。

金澤: 過去を見ても、その時々に起きた革命的なことに乗った者だけが生き残っています。アパレルでいえば、当初は「立地(業態)革命」があり、次に「EC革命」、そして今後はテクノロジーを活用する「売り方革命」が起きて行くということですね。当社は在庫管理の現場視点からオムニチャネルを見ていましたが、今日のお話で、オムニチャネルに対する認識が新たになりました。小橋社長、ありがとうございました。


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