情報産業という言葉さえもまだ耳馴染みのない1972年から、自動倉庫や輸配送などの物流システム構築で多くの企業のIT化を支援してきた、ロジザード株式会社 会長の遠藤八郎。2001年に日本で初めてWMSをASPで提供し、低コストでのIT化を実現。これにより在庫管理に腐心する中小の小売業や3PL業界のIT化を推進し、業界から大きな信頼を得てきた。その歩みを振り返りつつ、物流業界の未来について語る。

物流業界の情報システム開発に関わる

僕はもともとがプログラマーです。1979(昭和54)年に、ロジザードの前身となる会社を立ち上げ、紆余曲折ありましたが、物流の自動倉庫システムのソフトウェア開発を中心に事業を行っていました。高度成長期の製造業の仕組みの中で、物流は昔から自動化がテーマでした。オートメーション化の基本的な概念は、70年代にほとんどできていたのです。もちろんインターネットはありませんから工場の中に限られますが、自動車産業をはじめとする製造業では、今でいうIoTのレベルに近いことをやっていたのですね。

今は、半導体技術の驚異的な高密度・高速化で高性能になりました。オープン化され小さく速く安くなり、管理ポイントが多く広くなったのですが、情報処理という側面から見れば原理自体はほとんど変わっていないのです。しかし、小さく速くなるとともに、格段に安くなったことから、IT利用が大企業から中小企業、個人へと拡大していきました。物流はどんな産業においても不可欠で、IT活用による物流業務の効率化は、社会全体への貢献につながります。ここに携わる意義は大きいと思っています。


受託開発からパッケージソフトへ

創業時は、物流機器メーカーから自動倉庫システムのソフト開発を受託請負して、自分でプログラムを作っていました。業界は人材派遣中心でしたが、自分の会社は派遣をしない方針でした。1980年代の中頃になると、パッケージソフトが登場します。1985年にジャストシステムが出したワープロソフト『一太郎』が有名ですね。そこで僕もパッケージソフトの開発を始めました。これらはある程度は売れましたが、委託販売ですからバージョンアップすると前のバージョンの店舗在庫がドーンと戻って来る。それを相殺するためにたくさん作って納品すると、また次のバージョンアップの時にドーンと返品。戻ってきた「商品」は資産で税金がかかる、いわゆる不良在庫です。これは事業の大きなハードルになりました。僕はプログラマーですから、常に良いソフトを作ることを志していましたが、作れば作るほど利益が下がる悪循環で、借金を重ねることになりました。さらにバブル崩壊で、本当にこの時期は大変な思いをしました。


インターネットの登場とASP

物流システムの受託開発で何とかしのいでいたこの頃、インターネットを通じてアプリケーションを提供するサービス、いわゆるASP (Application Service Provider)が登場しました。在庫で痛い思いをしていましたので、在庫を持たずにソフトが売れるのかと驚き、このビジネスモデルはいいなと思いました。物流というのは汎用的で、誰もが運ばなくてはならない何かを持っています。また、物流と同様に在庫管理は世界共通の仕事で、かつ手間がかかる。これに対するサービスをインターネット経由で提供できるなら、ビジネスの可能性としてポテンシャルがある、物流在庫管理システム(WMS)を「商品」という形ある在庫を持たずに販売できると思ったわけです。


金澤との出逢い

ちょうどその頃に、金澤君(ロジザード株式会社 代表取締役社長)と出逢いました。彼は、うちにいた社員の大学の先輩で、当時はアパレル系企業のコンサルティングをしていました。アパレル企業にとって、在庫の適正化は大きな経営課題だという認識でコンサルティングをしていましたが、どこも在庫を正確に把握できていなくて困っていました。WMSは導入するのにコストも時間もかかります。パッケージも高額すぎて小中規模のアパレル会社は手が出ない、というジレンマを感じていたところでした。そこで、僕の会社のWMS『ロジザード』をASP化して販売していこうという話が持ち上がり、一緒に仕事を始めたのです。僕は技術開発を担当し、金澤君が販売会社を立ち上げてASP化した新製品「ロジザードPLUS」を販売し始めてくれました。その後、開発と販売が別会社というのは何かにつけて不都合だったので、1つにしたのがロジザード株式会社です。

WMSによって中小企業は経営の地盤ができるようになる、また、当時WMSは導入するのに数千万円以上かかるのが相場でしたから、それを月額5万円程度で使えるサービスならたくさん引き合いがあるだろう、と二人で皮算用しました。しかし、現実はそうは甘くありませんでした。サービスを始めた2001年頃は、まだインターネットが遅いうえに普及していなかった・・・つまり、早すぎたわけです。2003年頃になるとようやく、「ウチにもネットが入ります」という会社が増えてきたのですが、インターネットが高速になって利用できる環境が整うまでは、ASPへの理解も低くて大苦戦でした。


ECの成長とともに

ブレイクスルーは思わぬところからやってきました。2003年に急成長した有名なネットショップが在庫管理で困っているらしいと、知人を通じて相談があったのです。在庫管理といっても、ネットショップはB to C。WMSはもともとB to B向けのシステムだったため、概念が全く違いました。作業の手順や商品の整理の仕方、仕分けなど、今までの物流とは全く違う流れで、やってみないとわからないことばかり。テクノロジーで物流のお客様が抱える問題を解決したいという思いで仕事をしていましたが、想定しない流れやトラブルから、当初はクレームもたくさんいただきました。お客様の仕事をやらせていただきながら、ネットショップの物流に関するノウハウを学び、それを機能にしてサービスを拡充していったのです。

ネットショップが伸びるタイミングでその在庫管理の特異性に気付き、実際に経験できたことは、当社にとってとても大きな財産となりました。また、その会社はことあるごとにメディアで紹介されたため、知名度のある会社のWMSをやっているということがその後のロジザードの営業上、有利に働きました。


テクノロジーで物流業界をHappyに

インターネット上でアプリケーションを展開するサービスは、リスクが少なく柔軟性があります。これからも、インターネットを活用したサービスはどんどん登場すると思いますが、我々の物流システムは、一度使い始めるとそう簡単に変更されにくい特性があります。在庫という「もの」があり、必ず取引先があります。自分の会社だけの判断で仕組みをコロコロと変更するわけにはいきません。WMSは納品先、仕入れ先もひっくるめて管理しますから、別のシステムに乗り換えるというのは相当なチャレンジです。物流は正しく届いて「当たり前」、些細なことでも間違ったらクレームとなります。

それだけに、当社が担う責任は重大です。お客様の信頼を裏切ることは絶対にできません。常に情報のキャッチアップとサポート体制を万全にしています。機能そのものの性能を上げていくことはもちろんですが、それだけではダメで、バックグラウンドまできっちり整える必要があります。物流業界は非常に保守的で、世の中の流れにも遅れがちです。IT化すればもっと効率化されるといっても、いったいいくらの見積もりが出てくるのかと怖くて関わろうとしない。でも、我々の商品はASPで安価に小さく導入をスタートできます。心理的なハードルを下げて、事業の生産性向上にダイレクトに貢献できます。

物流配送は今、事業者が個別にやっていますが、本来は公共サービス、インフラだと思います。もっと共同配送のような考え方が広まってもいいと思います。先日、ヨーロッパの物流環境を視察してきました。欧州は日本とは違って、品物を届けさせるのではなく、自ら受け取りに行くというパターンが非常に多いです。日本でも今後、受け取りの仕方はいろいろと変わっていかざるを得ないと思います。

視察では、スペインの大型スーパーマーケットとアパレル企業のセンターを見学しました。働く人たちに対する配慮、環境を良くするための投資などがしっかりしているなと感じました。社員を大切にする意識がある企業では、働く人たちが楽になるための自動化なら、投資は惜しまないという姿勢が明確で、感心しました。
日本は全体的に格差が少ない国ですから、待遇そのものは他国と比べるとそう悪くはありません。ただ、残念ながら物流業界の人気は低い。ロジザードは、物流に関わるたくさんの人たちが楽しく働けて良い仕事ができ、困ることを少なくしていくこと、そして、物流業界の社会的地位向上に貢献することを目指しています。物流に関わる人がHappyになるシステムを、低コストで広くたくさんの人に使っていただければ、お互いにいいでしょう。
僕はその土台は作りました。ロジザードの次の世界観は若い人たちに自由に創造してもらえたらいいな、と思っています。 ただ、「顧客と社会に役立つ」ことは大事にして、忘れないでほしいと願っています。